国内動向

小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?(連載第2回)

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「デジタルシェルフ総研」バイヤー対談企画。
DtoC攻略のヒントとなる小売業界の仕入れについて、某スーパーマーケットチェーンでバイヤー経験を持つF氏に、株式会社いつも.取締役副社長の望月が伺いました。本企画では、小売店舗とECの「違い」と「共通点」からDtoCを成功させるカギを見つけ、今後の小売店舗とECの役割・共存について考えます。

株式会社いつも. 取締役副社長 望月智之
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集しながら、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

元スーパーマーケットバイヤー F氏
関西の大手グループ系列のスーパーマーケットにて34年間勤務。バイヤー歴25年(カウンセリング化粧品、セルフ品、家庭用品等)、e-コマース営業部(ネット通販、ネットスーパー)部長2年担当。現在はセミナー講師やカウンセラーとして活動。

前回の記事では、スーパーマーケットのバイヤーさんがどのような観点で商品を仕入れ、どのような考え方で売場を作っているのかをお伺いしました。そこから見えてくる商品の売込み方のヒントは、ぜひ前回の記事を参考にしてください。

前回の記事はこちらから

https://itsumo365.co.jp/lab/12378/

今回は、小売として認知の少ない商品をどのように扱っているのか、F氏にバイヤーの立場からお話を伺いました。

 

認知の少ない商品をどのように売るのか

望月 新商品をゴールデンゾーンのどこに置くかということを考えた際に、新製品って例えば大手が出す大規模なものもあれば、あまり有名ではないメーカーの新製品も色々あるじゃないですか。それってやっぱり扱いは違うんですか?TVCMが行われるものは良い場所に置くといったような。

 

F氏 バイイングのビジネス的には、宣伝広告費がたくさん入っている商品の方がリーチ度が高いのはその通りです。そういう商品は逆に入れていないとお客様の不満足が必ず起こりますので必要です。

 

なるほど。顧客満足的にはそういった商品はやはり入れる必要があるんですね。

 

例えば棚が定番で埋まっていても、一時期だけコマーシャルに合わせてエンドやオープンスペースで販売するなど連動しています。

それは、その都度対応していらっしゃるんですか?

 

チラシを作っていたりもしますので、半年前から組み立てを作っていて、販促から訴求まで含めてほぼ半年分決めておきます。メーカーさんも計画に入っていますので、商談ベースで決めておいて後で粛々と進めていきます。

 

大規模な販促はあらかじめ決まっていますもんね。

 

その一方で、望月さんが仰っていたポイントは、宣伝広告費もかけずにあまり認知もされていない商品をどう売るかということだと思うんですが。

 

そうです。それが聞きたいことです。

 

実はそこがバイヤーの一番の楽しみでもあります。

 

そうなんですね!?

 

商品開発の思い入れが売場の差別化に繋がる

売れている商品が売れるのは当たり前なんです。では、なぜ私が取引先の営業だけではなく、開発の人と話をしているかというと、開発の方って自分が作った商品が我が子のように可愛いんです。だから、手塩にかけて作った商品をやっぱり世の中に出してあげたいと思っています。

 

開発者はやはり、商品への思い入れが深いんですね。

 

はい。でも認知されていないのでなかなかお客様に伝わらない。大手の小売店になればなるほど実績のないものは取り扱わなかったり、あるいは宣伝広告のないものは二の次になります。でも実は、そういった商品の中には良いものがすごく多いんです。

 

他でも扱っていないので、売場の差別化にはもってこいですよね。何か事例のお話ってあったりしますか?

 

例えば、毛染めってスーパーの化粧品の中では売上構成の20%くらいあるんですが。

 

すごいですね!

 

シャンプーと同じくらいあるんです。

 

それは知りませんでした。

 

物凄いボリュームがあるんです。ただ、その中でも髪の毛全体を毛染めするものは多いんですが、補色剤という一部だけ伸びてしまった部分を染めるという商品は、昔から何十年と全然変わっていないんです。

 

たしかに。

 

ただ、その商品は見栄えも良くないし、売場の端っこの方に申し訳程度に置いてあったんですけど、そこに目をつけたメーカーさんがいました。マジックペンのフェルトみたいな商品で簡単につけられる商品を作られて、しかも肌にも良いんです。

 

売れそうですね。

私も家内が毛染めしているので分かるんですが、朝少し気になる部分をさっと染めているんです。しかも、その商品だったら洗面台の狭いところに置いてあっても誰も毛染めだとは分からないプロダクトなんです。

 

良い商品ですね。

 

早速バイヤーとして、なぜこの商品が必要なのか。作った人はどういう人で、どういう思いで作られたものなのかというイメージを棚1枚で表現しました。お客様は知らない商品なので、手にとって頂けて、なおかつ他の店舗では取り扱っていないという理由で来店されるので、狙い通りの結果となりました。

必然的に小売業界で日本一の売上になるんです。

 

へぇ~! 凄いですね。

 

でもそれって、他がやっていないだけなんです。

 

あ、なるほど。

 

開発の方は開発費用も予算を持っていますが、取り扱いがないと売上もないのでその予算が使えないんです。ということは、バイヤーと開発の方って協力し合うことができるんです。バイヤーの仕事というのはそういうことなんだと思います。

 

 

小売のバイヤーが張っているアンテナ

なるほど。すごく多くの気付きがありますね。バイヤーさんとしては、店舗の鮮度を保つような新商品の他にも、お客様を飽きさせず他店より自店舗を選んでもらえるような、差別化できる商品が必要で、そんな売場のコンセプトに合うような商品のヒントは、実は営業の方だけではなく、開発の方がお持ちであることが多いんですね。

 

そうです。しかも、売れない商品ほど、売れれば利益になります。

 

その商品が売れるかどうかの目利きがバイヤーさんの力で、常にそういうアンテナを張っているんですね。

 

そこが一番の意義ですね。逆に言えば、勘が鈍くても組み立て次第で売れるようになります。我々は売場という空間を持っていて、その空間をデザインできるのが強みですね。

バイヤーさんのお仕事の醍醐味なんですね。

 

まさにその通りです。

 

これはメーカーの営業さんにとっては大きなヒントになるんじゃないでしょうか。

 

確かに、そういう目線を持って来て頂けると、バイヤーも嬉しいんじゃないでしょうか。

 

今回のまとめ

今回の対談で特に印象に残ったのが、意外とバイヤーさんが認知の少ない商品を欲しがっているということです。能動的にメーカーの開発さんにまでお話を聞きにいくという姿勢から、積極的に差別化商品を欲していることが伺えます。これは、D2Cのスタートアップにとっては優れた商品を正しくプレゼンすることができれば小売チャネルを開拓できるチャンスがあると言って良いでしょう。

特に、他社にはないような優れたプロダクトで、なおかつネット上で評価されている商品などは、バイヤーさんのコンセプトに合致することで、売場の差別化にも繋がるためWin-Winの関係で一気に販路を拡大することに繋がる可能性があります。

とはいえ、その最初の繋がりをどのように開拓するのかが、大きな課題となっているD2Cの企業様も多いと思います。そこで、次回はF氏の経験から、実際にどのようにして新たな商品と出会っているのか、より具体的な商品の流れについて伺っていきます。

今回の記事はここまでです。
次回は商品を仕入れる際の判断基準について、F氏にバイヤー目線でのお話を伺いました。

(連載第1回)
小売のバイヤーに刺さる商品売込み時のポイントは、『店舗のコンセプト』
https://itsumo365.co.jp/lab/12378/

(連載第2回)
小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?
https://itsumo365.co.jp/lab/12431/

(連載第3回)
小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは
https://itsumo365.co.jp/lab/12539/

(連載第4回)
小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは
https://itsumo365.co.jp/lab/12694/

(連載第5回)
小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方
https://itsumo365.co.jp/lab/12783/

(連載第6回)
バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント
https://itsumo365.co.jp/lab/12812/

(連載第7回)
これからの時代に求められるD2C商品とその情報発信
https://itsumo365.co.jp/lab/12847/

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