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バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント(連載第6回)

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「デジタルシェルフ総研」バイヤー対談企画。
DtoC攻略のヒントとなる小売業界の仕入れについて、某スーパーマーケットチェーンでバイヤー経験を持つF氏に、株式会社いつも.取締役副社長の望月が伺いました。本企画では、小売店舗とECの「違い」と「共通点」からDtoCを成功させるカギを見つけ、今後の小売店舗とECの役割・共存について考えます。

株式会社いつも. 取締役副社長 望月智之
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集しながら、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

元スーパーマーケットバイヤー F氏
関西の大手グループ系列のスーパーマーケットにて34年間勤務。バイヤー歴25年(カウンセリング化粧品、セルフ品、家庭用品等)、e-コマース営業部(ネット通販、ネットスーパー)部長2年担当。現在はセミナー講師やカウンセラーとして活動。

前回の記事では、スーパーマーケットのバイヤーさんが考えるNP商品とPB商品のバランスについて詳しくお伺いしました。そこから見えてくるD2C企業が小売店舗に進出するためのヒントは、ぜひ前回の記事を参考にしてください。

前回の記事はこちらから

https://itsumo365.co.jp/lab/12783/

今回は、バイヤー視点から考えるD2C成功のポイントについて、F氏にバイヤーの立場からお話を伺いました。

 

D2Cメーカーが大手量販店に商品を並べるためには

望月 最近D2Cみたいな形で卸を介さずスタートするメーカーさんが増えていますよね。まずネットで売り始めて、そこそこ売れ始めたらLOFTとか東急ハンズに置いて、そこから大手のドラッグストアに置くという流れがあります。僕らはそのD2C的な流れをECから始めましょうというサポートをすることが非常に多いんですけど、とはいえネットで売れる限界値もあって、店舗に置かないとそんなに爆発的には売れない。なので、中小のメーカーさんがどうやったら大手の量販店さんに最終的に並ぶのかっていうことは結構大事な問題です。Fさんのバイヤーとしての視点や経験から見ると、何が重要になりそうでしょうか?

F氏 まずその前提のところで、例えばナショナルチェーン店に並ぶとしたらそれだけの生産能力があるかどうかです。

 

スーパーとしては最低条件だと仰っていましたね。

 

品切れは許されないですから。

 

生産能力ってそのシビアさが具体的に分からないんですけど、生産能力ってキャパシティが結構すぐに来ちゃうものなんですか?

 

中小さんでも、自分のところで作っていたら生産能力ってちゃんと分かっているんです。同じ中小さんでもOEMに出しているとそのOEM先のキャパがあります。大手になるほど一回のラインでどれだけのロットが作れるかが生産効率を上げる方法なんですね。要は機械の切り替えをしない。ということはちょっとだけやるっていうのは一番嫌われます。当然生産コストも上がってきますし、ロットもかなり大きかったりします。だからその辺をどういう風にOEMかけるかとか。

 

じゃぁ量販店に並べるには、まず前提条件として生産量がどれくらいで、それをちゃんと守りきれるかっていうことなんですね。

 

それはおそらく最初に求められると思いますね。ただ、量販店の中でも確実的な売場だけではなくて、その中に別の売場を持っていたりするんですね。例えば食品フロアとかシャンプーが並んでいるフロアがありますよね。私がいたスーパーでは、それとは別で化粧品のフロアも持っていたんです。そこはどれだけお客様に対して面白みが出せるかというコンセプトの場所です。ということは、そこに関しては多品種少量販売がキーということなんですね。

まさに売場のコンセプトが違うと、前提条件も異なるんですね。

 

はい。女性の場合、同じものばかりあってもだめで、どれだけその場から商品を選ぶことができるかなので、そういうところに持っていくという手はありますよね。

 

たしかに。そういう売場に置いてくださいというアプローチですね。

 

小売のバイヤーとどのように交渉するか

今はシステム的に直接交渉しづらいと思うので、バイヤーさんに頼んでどこか1店舗2店舗でもいいので実験販売させてほしいと頼むと、置いてもらう取っ掛かりとしてのきっかけにはなると思います。ただ、条件は色々あると思います。仕入れじゃなくて消化仕入れという形で売れたものだけお金を払うとか、何かやり方はあるかもしれないですね。

商習慣的に、お店が仕入れるパターンと委託というか消化仕入れパターンと、他にも協賛金を払ったら置いてくれるとか色々なパターンありますよね。

 

百貨店のイベントは全部協賛金ですよね。場所だけ貸しているという感じだと思います。

 

スーパーでも協賛金とかあるんですか?場所を借りるために別途お金を払うというような。

 

うちのスーパーでは買取が多かったですね。協賛金という形はほとんどなかったです。ただ店頭業者さんというのは売れた後に消化仕入れで売上と利益を計上する形になります。

 

ワゴンで販売するイベント業者さんとか、単に場所だけというのは僕のやっているところではなかったですね。

 

百貨店ではあるんですね。

 

結構ありますね。一定の金額を場所代として、いわゆる協賛金として集めていますが、この協賛金という言葉がちょっと良くないかもしれないですね。要はスペース代ですので、まずはそれを払って売上は自分のところで取っています。店舗側・売場からすると場所代をもらうだけで一番確実な方法ですね。

 

そうですね。

 

ところが、これは売れると判断できる商品だともったいないんです。

 

場所代以上の利益の可能性があるんですね。

 

そこの兼ね合いですね。

 

では、新興のメーカーさんで商品が売れる自信があれば、別に場所代払ってもいいよねって普通思う気がするのですが、それは百貨店とかにアプローチするのが一番現実的なんですかね。

 

ただしハードルは高いですよ。

 

そうなんですか。

 

チャネルごとの違いも考慮する

百貨店は何でお客様を囲い込んでいるかというと、百貨店の「ブランド」です。例えば関西で言えば、阪神百貨店と阪急百貨店で置いているものって全然違いますよね。だから客層も違います。

だから一口に百貨店でも、どこでも良いという訳ではないんです。もっと言えば南にある近鉄百貨店とかはもっと客層が変わります。阪急百貨店は阪急沿線で割と所得層の高いお客様が多くて、近鉄は割と下町のお客様が多いので、同じものを置いても売れないです。

 

かつブランドもあるから簡単には置いてくれないんですね。

 

伊勢丹とか特にそうですが、包み紙がブランド価値ですから、同じ商品でも伊勢丹の袋に入れてもらえるか入れてもらえないかで変わります。

 

気持ちが違いますもんね。

 

それを維持する事が百貨店のブランドの維持なんです。だからお客様が、自分で思っている価値観より低いものを入れられるとその店のイメージが落ちてしまうんですね。

 

百貨店ってすごいですね。ブランドビジネスというか。

 

だからスーパーと中身が同じものでも高くなりますし、定価販売です。

 

全然ありますもんね。

 

だから装飾にお金も掛かります。

 

空間に掛かるコストですね。

 

でも同じ百貨店でも店によって違うんです。同じ百貨店でも、あえて商品が置きやすいところに置いて、店名を言わずに「この商品は百貨店に置かれました」ということもできる訳ですよ。とか、色々とやり方はある訳です。

 

あぁ、たしかにそこまでは分からないですもんね。
同じような観点でLOFTや東急ハンズに置くというのは話題性としてはありなんですかね。

 

あるとは思いますが、そういったお店にはそういう商品で溢れかえっていますから、そこで勝つのはまた簡単ではないですよね。

 

そうか、逆に競合がすごく多いということですよね。

 

とてつもない競合ですよ。あそこに入ったら。お客様が普通の商品じゃないから来ている訳ですもんね。お客様の目が肥えています。

そういうところで打ち勝てれば、ドラッグストアとかに置ける可能性があるっていうことなんですね。

 

LOFT・東急ハンズで勝った商品って爆発的な売上を示しますので。

 

へぇ。そうなんですね。あとコスメのバラエティショップ、昔のソニプラみたいな感じもいけそうですよね。

 

そうですね。そういうところでいかに勝つかというところですよね。1つのアプローチとして、そういうところの従業員さんとか店長さんって結構女性が多かったりするんですよね。そういう方に、まず使ってもらうということは重要ですよね。

 

あ、使ってもらうのは大事ですか。

 

はい。そういう方っていうのは、いかに良い商品を使ってもらえるかっていうことを基本に持っているので、自分がいいなと思ったら使いたいんですよ。ということは仮にその方が同じ売場で取り扱ってもらったとしても、その時の思いが違ってきます。

なるほど。それは当然変わりますよね。じゃぁ、置くと同時に店員さんに使ってもらえるようなサンプルを渡すとかってことをするんですね。

 

そうですね。まず使ってもらわないと分からないですし。そこは値段だけじゃない部分が多分にありますね。

今回のまとめ

今回の対談で、これからD2C商品を小売店舗に売り込むためのヒントをいくつか聞くことができました。スーパーにとっての生産能力や百貨店のブランド戦略など、小売のチャネルごとに何が最も大切なのかを念頭に置き、その上でバイヤーさん個人の考えに合わせてプレゼンを行う必要がありそうです。
闇雲に商品を扱ってほしいとお願いしても、そのチャネルのコンセプトに合うか。また、その店舗に並んだ際に競合商品に打ち勝つことができるのかは慎重に選んで戦略を立てる必要があるでしょう。
実績の少ない商品など、場合によってはいきなり全店舗に置いてもらうような交渉をぶつけるのではなく、テスト的に数店舗から始めてもらうような「お付き合いのきっかけ作り」を優先する方が良い場合もありそうです。

今回の記事はここまでです。
次回はこれからの時代に求められる商品とその情報発信についてのお話を伺います。

(連載第1回)
小売のバイヤーに刺さる商品売込み時のポイントは、『店舗のコンセプト』
https://itsumo365.co.jp/lab/12378/

(連載第2回)
小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?
https://itsumo365.co.jp/lab/12431/

(連載第3回)
小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは
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(連載第4回)
小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは
https://itsumo365.co.jp/lab/12694/

(連載第5回)
小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方
https://itsumo365.co.jp/lab/12783/

(連載第6回)
バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント
https://itsumo365.co.jp/lab/12812/

(連載第7回)
これからの時代に求められるD2C商品とその情報発信
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