国内動向

小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方(連載第5回)

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「デジタルシェルフ総研」バイヤー対談企画。
DtoC攻略のヒントとなる小売業界の仕入れについて、某スーパーマーケットチェーンでバイヤー経験を持つF氏に、株式会社いつも.取締役副社長の望月が伺いました。本企画では、小売店舗とECの「違い」と「共通点」からDtoCを成功させるカギを見つけ、今後の小売店舗とECの役割・共存について考えます。

株式会社いつも. 取締役副社長 望月智之
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集しながら、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

元スーパーマーケットバイヤー F氏
関西の大手グループ系列のスーパーマーケットにて34年間勤務。バイヤー歴25年(カウンセリング化粧品、セルフ品、家庭用品等)、e-コマース営業部(ネット通販、ネットスーパー)部長2年担当。現在はセミナー講師やカウンセラーとして活動。

前回の記事では、スーパーマーケットのバイヤーさんが自店舗に欲しいと思う商品とその探し方について詳しくお伺いしました。そこから見えてくるD2C企業が小売に進出するためのヒントは、ぜひ前回の記事を参考にしてください。

前回の記事はこちらから

https://itsumo365.co.jp/lab/12694/

今回は、バイヤーさんが考えるPB(プライベートブランド)とNB(ナショナルブランド)のバランスの取り方について、F氏にバイヤーの立場からお話を伺いました。

 

小売バイヤーが新しい商品と出会うタイミング

望月 例えば新興のメーカーさんがいて、このバイヤーさんに知ってもらいたいという時は、いきなり電話しちゃうんですか? 卸経由だと難しそうですし、展示会とかになるんでしょうか。

 

F氏 私はアンテナを貼っていることが多いので、展示会というか、そういう人と直接会う機会が多かったですね。

 

きっかけは紹介とかですか?

 

誰かと一緒にいたときにお茶していたら声を掛けられたとかですね。

 

あ、そういうレベルで。

 

そういうレベルですよ。

 

じゃぁ展示会のような場があるというより、人の繋がりにかなり近い感じなんですね。

 

はい。ビジネスよりも商売ですね。

 

なるほど。

 

昔は今ほど個人情報などのコンプライアンスはそれほど厳しくなくて、割と自分の事を発信していれば届くような人間関係になっていました。メーカーさんの特に開発系の方はプロなので、私は色々と教えてほしいという立場で話しかけていました。こちらで考えているコンセプトの中に当てはまる商品が無くても、とりあえず話を聞きにいくというやり方を見つけました。

 

積極的にコミュニケーションを取ることで、商品とコンセプトのすり合わせを行っているんですね。

 

そうです。今あるNBの商品でも、パッケージを変えてオリジナル商品的にしていることって結構あるんですけど。こちらの視点としてはそれをやる意味はないんです。お客様は値段が安くて喜ばれると思うんですけど、そこにバイヤーの楽しみは全くないと思います。そこをしっかり考えて提案して、できなければオリジナルで作るといったこともバイヤーの仕事なんです。

それはプライベートブランドとかストアブランドと言われる、小売さんが自主企画して作るというようなことですか?

 

そうです。本来そうあるべきなんですよね。私も20個くらい作ったかもしれないですね。

 

それは利幅も取れるところが利点ですか?

 

それもありますが、それ以上に他の店には置いていない物を置けるという差別化ですね。

 

なるほど。そちらの方が大きいんですね。

 

小売店が考えるPB商品

例えば、私が作った米ぬか石鹸という商品は、普通の石鹸なんですけど天然素材を素地に使っています。作った当時は時代的に天然素材というものが非常にもてはやされた時代でした。

 

すでにニーズを察知されていたんですね。

 

はい。そこで、石鹸というと突っ張り感があって、アルカリ性なので皮膚から酸性を取っていって潤い感がなくなっていくので、より潤いを持って石鹸で洗いたいというニーズからこの米ぬかに行き当たりました。でも米ぬかを使った石鹸を探しても作っているメーカーがなかった。だから作ったんです。米ぬかのエキスに保湿の成分があるので、胚芽を入れるとスクラブ効果もあるので汚れを落としやすいんです。

 

時代のニーズと、その時考えていた売場のコンセプトに合う商品が米ぬかを使った石鹸だったんですね。メーカーさんも同様にニーズをキャッチしていれば取り扱える商品もあったかもしれませんが、無ければ作れば良いと。

 

そうですね。パッケージなんかも自分で作ったんですけど、あえて超ベタなパッケージなんです。

 

それはどのような狙いがあったんですか?

 

商品自体がきれいじゃないので、そこにきれいなものを入れると商品が嘘くさく見えるんですよね。

 

なるほど。

 

ベタな方が、商品がそれっぽく見える。この時作った石鹸は、30数年前に作ってリニューアルしながらですけど、いまだに店頭に並んでいます。

 

30年も続くということは、ヒット商品なんですね。

 

こんなことが実はもう一つのバイヤーの仕事だったりします。

 

メーカーが作っていないから自社で作るっていうのは、結構大掛かりな方なんですよね?

 

大掛かりですね。

 

定番のNB商品もパッケージを変えてというパターンもあるし、完全PBの商品も選べる。お客様からすると、バリエーションがあるということなんですね。

そうですね。パッケージも変えると一緒に数量の計画も作るんですよ。当然買取です。メーカー側からすると販売個数が確定する訳ですので、コストを下げられるということですね。

 

メーカーは売上が確定するし嬉しいですもんね。全般的にPBを増やすっていう流れは日本だけでなく世界的にそうですもんね。

 

効率を考えればそうだと思います。ただそれだけやっているとホームセンターさんと同じ形になってくるんですよね。

 

物流効率と店舗の魅力

ホームセンターと同じとは、どういう視点ですか?

 

物流効率だけです。

 

なるほど。

 

物流効率を上げて物流コストを削減した分だけ安くする。

 

それは複数社の取引だとコストの効率が悪いから、なるべく少なくしていくという流れですね。

 

そうです。だから一品でフェイス(棚の仕切り)を長くとっています。フェイスを長く取るということは品出しの回数も減るということなんです。

物流費もそうだし、店舗の人件費のコストも下げられるからっていうことなんですね。

 

そうです。当然品目数が多ければその分手間が掛かりますよね。

 

棚のスペースは限られているから、品出しする回数が増えるということですね。

 

はい。それで一日に売れる量も少ないので、1個2個で入ってきて品揃えの分だけ人件費がかかるという。だからその兼ね合いなんです。

なるほど。あまりにも品揃えのバリエーションが減ると店舗の魅力も下がるから消費者的にはつまらない店になっちゃうし、そのバランスなんですね。

 

言い方は変ですけど、安ければいいというお客様もいるので、価格志向のお客様にはいいんですけど。日本の一般の消費者はある品種は安いものでいいけど、ここだけはこだわりたいとか食材でもありますから。

 

確かに。

 

だからその辺のバランスをいかに取れるかが重要です。

 

なるほど、面白いですね。

 

今回のまとめ

今回の対談で、小売のバイヤーさんが考えるNBとPBのバランスについて2つの側面を伺うことができました。1つは、PBを作ること自体は小売としては大変なので、コンセプトに合致する商品が存在していればメーカー商品を検討する反面、PBを作ることで他社にはない商品で売り場の差別化が図れるという観点。もう1つは、NBとPBを取り揃えることで、顧客にバリエーションを与えて売り場としての価値を上げたい反面、取り扱い商材が増えるとその分、物流コストと人件費が上がってしまうため、運営面でのコストとしてもバランスを取る必要があるという考えは新鮮な情報でした。

世界的に小売がPBを増やしている中、とはいえ新しいメーカーの商品も求めているという点にD2C企業の突破口があるのかもしれません。

今回の記事はここまでです。
次回はバイヤー視点から考えるD2C成功のポイントについてのお話を伺います。

(連載第1回)
小売のバイヤーに刺さる商品売込み時のポイントは、『店舗のコンセプト』
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(連載第2回)
小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?
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(連載第3回)
小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは
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小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは
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小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方
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(連載第6回)
バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント
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これからの時代に求められるD2C商品とその情報発信
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