意外と重要 商品マスタ
ECサイト運営者の頭を悩ませるのが「商品の在庫管理」と「梱包・発送作業」です。特に自社ECサイトとECプラットフォームを併用している場合は、異なる商品IDで管理していると、ECサイト運営に様々な弊害をもたらします。
今回は意外と重要な「商品マスタ」について、商品IDに含めるべき要素と命名規則などを中心に解説していきます。
商品マスタとは
商品マスタとは、自社や自店舗で取り扱っている商品の情報をまとめたものです。商品マスタには主に以下のような情報が含まれています。
・製品コード
・JANコード
・ISBNコード
・型番
・商品名
・商品カテゴリ
・仕入価格
・購入ロット
・サプライヤー
・配送業者
・リードタイム
・販売チャネル
これらの情報は全て含まれているのではなく、事業者や取り扱う商品によって含めるべき情報が異なります。また「購入ロット」や「サプライヤー」、「リードタイム」は、自店舗で販売する商品に「購入品」が含まれる場合に登録・管理する項目です。それぞれの項目を適切に登録・管理することで、商品の在庫管理はしやすくなり、梱包・発送作業も効率化されます。
今回はこの商品のマスタの中でも、狭義の商品マスタである「商品コード」「JANコード」「型番」が統一されていないことで起こる弊害を紹介していきます。
商品マスタが整備されていないことによる弊害
これまでECを運営していく上では、商品マスタの精度が低くても商品ページさえあれば、大きな問題なく運営することが可能でした。しかし、業界の再編は進み、取扱商材のカテゴリ追加や、大規模なチャネル統合などが続く変化の激しい業界で、次のステップへの足かせとして、商品マスタの不備が懸念材料となっているのです。
自分たちで最低限管理が出来ていれば、商品マスタは何でもいいのでは?
とお考えの方もいるかと思います。
たしかに運営自体は可能ですが、各モールやチャネル毎に別々の商品マスタで登録してしまうと、物流のアウトソースを検討した際に、必ずネックとなる部分です。
例えば、楽天、Yahoo、Amazon、でサイト運営していて「A001」と言う商品があった場合、
など、各モールで別々の商品マスタを登録していたとします。
そうすると、1つの商品に対して複数の商品マスタが付与されているため、物流委託をした際に、商品知識のない物流現場では、個の商品の特定が出来ません。
よって、出荷・梱包業務等に支障が出てしまうこととなり、コストアップや物流スピードの低下など大きなリスクに変化していきます。
この例でいえば、楽天、Yahoo、Amazonで同じコード「A001」で統一することが望ましいです。
本来、商品マスタ情報は、早く低コストで流通させるための仕組みであり、商品マスタを見ただけで、どのような商品かわかるようになっているのが理想です。
これまでのECはマスタ情報の精度が低くても、売上に影響が無かったため放置されてきましたが、より変化の激しいこれからのECは違います。
今はまだ大丈夫と考えている方も、早いうちから準備を進めておく必要があります。
まだ対応が出来ていないという方はぜひこの機会に商品マスタを今一度見直してみましょう。
商品マスタ(コード)の種類
先述したように、商品マスタ(コード)にはいくつかの種類があります。それぞれのコードの意味を正しく理解し、自社にとって最適な商品マスタを設定できるよう対策しましょう。
JANコード
JANコードとは、「どの事業者の、どの商品か」を表す国際標準の商品識別コードのことです。①GS1事業者コード(9桁、10桁または7桁)と、②商品アイテムコード(3桁、2桁または5桁)、③チェックデジット(1桁)で構成される13桁となっています
(参考:GS1 Japan「GS1事業者コード・GTIN(JANコード)とは」)。
JANコードは通常、バーコードリードで読み取れるようにバーコードで表示されており、商品幅の関係で13桁のJANコードが利用できない場合は、8桁の短縮版が利用されます。
JANコードはコードに含めるべき要素と順序が固定されているため、商品マスタ作成初心者でも参考にしやすく、また社員間での共有も容易です。
また国際基準の商品識別コードですので、特定の商品に対して自社だけでなく、取引先や配送業者も同じ認識を持つことができます。
ISBNコード
ISBNコードとは、国際標準図書番号(International Standard Book Number)の略称であり、JANコードと同様、出版物の発行国・出版者・書名を特定する固有番号となっています。
ISBNコードは国際標準の図書記号であるため、世界中どこにいても13桁のISBNコードを検索すれば特定の書籍を探し出すことが可能です。
例えば、「ISBN978-4-949999-12-0」というISBNコードを検索した場合、同じISBNコードを持った書籍は2つとして存在せず、「日本図書コード管理センター」が発行する「ISBNコード/日本図書コード/書籍JANコード 利用の手引き 2010年版」が表示されます。
出版関連業者や学術機関の研究者、一般の読者はこのISBNコードを活用して特定の書物を探し出し、書籍の「概要」や「在庫情報」などを閲覧することができます。
ISBNコードはJANコードと同様に、商品の供給者と需要者がスムーズに発見・提供するために用いられるコードであり、商品マスタとしても重要な役割を持ちます。
日本図書コード(書籍JANコード)
先述したISBNコードに、日本独自の①国内基準図書分類記号と、②価格コードを付与して標準化したコードが「日本図書コード」(書籍JANコード)です。
書籍JANコードにはバーコードシンボルが付与されており、出版取次会社と書店などでの流通スピードの向上、コスト削減を目的としています。
日本図書コード(書籍JANコード)は日本図書コード管理センターで申請でき、そこで発行されたコードを用いて、書籍へのバーコード表示を行うことが可能です。
GS1 Japanいわく、「現在出版市場で流通している書籍のバーコード表示率はほぼ100%」に達しており、新刊の出版・販売において日本図書コード(書籍JANコード)の取得は必須の状態となっています。
ASINコード
ASINコードとは、Amazon Standard Identification Numberの略称で、Amazonプラットフォーム内で独自に発行されている商品識別番号のことです。
ブランド所有者が自身のブランドの商品に対して識別番号を付与し、適切に管理することが目的で運用されているものであるため、ブランド所有者以外の出品者が独自の商品ページを作成することを防ぐメリットを持っています。
ASINコードも商品マスタとして活用を検討できるコードですが、商品の色やサイズの違いでASINコードを分けて作成することがユーザーの利便性向上の理由から禁止されているため(バリエーションに関するポリシー)、商品マスタとして管理・運用するにはやや使いづらいでしょう。
自社で取り扱う商品数が少ない場合や、色やサイズによる違いがない商品を管理している場合は活用を検討してみても良いかもしれません。
商品マスタは自社用にカスタマイズするのがおすすめ
以上のように、商品マスタ(コード)には様々な種類があり、いずれも商品識別をスムーズにし、商品の流通スピード向上やコスト削減を実現するために寄与します。しかし、自社で大量に商品を抱えている場合や、色違い・サイズ違いの商品を多く取り扱っている場合などには、商品マスタとして不十分な可能性があります。
一見すると国際標準の商品識別コードである「JANコード」を用いれば、取引先や配送業者でも共通認識がとれる、と感じるでしょう。
ただしJANコードは、GS1事業者コードの新規登録手続きを済ませ、9桁or10桁or7桁の事業者コードを取得しなければそもそも管理できないほか、商品情報としては「事業者コード」と「アイテムコード」の2つしかありません。
実際の流通の現場では、商品の型番や商品名、商品カテゴリ、仕入価格など、細かな情報を照合しながら、間違った商品を配送しないように注意を払います。
こうした作業を行う際、JANコードしか付与されていない商品が大量に存在しているのでは作業の効率化は難しいでしょう。
商品コードを活用した商品管理・運用の発想は素晴らしいことですが、アイデアをもう1つ進めて、自社用にカスタマイズした商品マスタを作成することをおすすめします。
事実、商品マスタの商品ID(商品コード)には、自社基準で定めた番号を付与する事業者が多く存在します。
商品マスタの設定方法
商品マスタの「商品ID」を設定する際は、流通システム開発センター(GS1 Japan)が定義する「JANコードの構成」を参考にすると設定しやすくなります。
商品マスタの商品IDを設定する際は、JANコードを構成する各要素のように、商品の特定に必要な「要素」と「桁数」を決めておくことがポイントです。
商品IDの桁数が固定され、各要素の順番が固定されていると、商品IDの管理番号を1度見ただけで「どの商品か」をパッとイメージすることができます。
とはいえ管理する要素の種類が多ければ多いほど、商品IDの桁数は増えるため、設定時にいくらか注意すべき点があります。以下では商品IDの設定手順と、設定時のポイントを紹介します。
設定する際の手順
商品IDを設定する際は、各要素の桁数を揃えた上で、全体の桁数を揃えることが重要です。そうすることで、自社や物流委託先の間で商品IDに対する解釈に差が生まれず、在庫管理や梱包・発送作業をスムーズに進めることができます。
また商品IDは基本的に全商品に適用できることが理想であるため、どの商品にも共通して必要な要素を含めていくことがポイントです。例えば「仕入れ先(サプライヤー)」や「納期(リードタイム)」、「販売チャネル」、「商品カテゴリ」などは、どの商品にも必要でしょう。またそれらに加えて、商品全てに無条件に適応する番号「通し番号」なども必要です。
例えば、アパレルショップの場合、トップスやボトムス、シューズなど、様々な商品を取り扱うことでしょう。そこで商品IDを設定する場合、特に注意しなければならないのが「通し番号」です。
よく「商品ジャンルごとに桁数を揃えて管理しましょう」といった管理方法が提案されていますが、いざ100番台はTシャツ、200番台はブルゾン、といった形で管理してしまうと、基準となる冒頭の番号に限界が来てしまいます。また3桁の商品番号は取り扱う商品数によっては限界を迎えることもあり、現実的な設定方法とはいえません。
したがって、商品IDの通し番号は、商品ジャンルごとに分類するのではなく、「商品リリース順」や「商品登録順」で管理するのがおすすめです。
設定時のポイント(注意点)
商品マスタの商品IDを設定する際に注意すべき点は主に3つあります。
1つめは、命名規則を決めておくことです。仮に仕入れ先を2桁、納期を2桁、販売チャネルを2桁、商品カテゴリを2桁、通し番号5桁、とした場合、商品IDは13桁となります。さらに要素を追加する場合はこれよりも多くの数字を扱うことになるでしょう。
これだけ多くの数字・英字を扱うことになるため、商品IDに用いる要素は手前から固定することがポイントとなります。要素の順序と桁数を固定することで、商品IDの解釈を統一できます。
そして2つめが、定期的に商品IDのメンテナンスを行うことです。商品IDに用いる要素の中には、仕入れ先や物流委託先などがあり、ECサイト運営が進むにつれて使わなくなったIDは整理しておかなければ、誤用してしまうリスクがあります。
ECサイト運営では様々な商品管理ツール(Excelやクラウドツール)を用いることが多いと思いますので、商品IDを統一し、定期的に利用していないIDを整理することが重要です。
最後に3つめが、商品IDの桁数を「13桁以下」におさめることです。商品IDにはなるべく多くの情報を詰め込みたいと思うかもしれませんが、商品管理を行うPOSやシステムがJANコードの13桁を元に設定の上限値を決めていることもあるため、設定時には注意しなければなりません。
先述したように、商品IDにはどの商品にも共通して含めるべき要素を採用し、少ない情報で適切に管理できるよう設定する技術が求められます。
商品マスタが設定された後のメリット|データの活用事例
商品マスタの商品IDが適切なルールにしたがって設定された後は、商品の在庫管理や、商品の梱包・発送作業がスムーズになります。
取り扱っている商品が多い場合はどうしても諸々の作業が繁雑になってしまいますが、商品IDを設定していることで、商品IDの各要素を頼りにした検索・データの出し分けが可能となるため、商品管理・分析業務全般が効率化されます。
また商品IDの命名規則を全チャネルで統一しておくことで、商品の在庫管理、商品の梱包・発送作業はよりスムーズなものとなります。自社ECとECプラットフォームを併用している事業者は特にチャネル間の混乱が減るため、ぜひ設定することをおすすめします。
まとめ
これからのECサイト運営では、業界全体の変化に柔軟に対応できる体制を構築していくことが重要です。商品マスタの適切な設定を行い、全チャネルで同じ商品IDを利用することで効率的なECサイト運営は実現します。商品マスタ設定・管理は、自社の努力次第で実施できる部分ですので、ぜひこの機会に試していただければと思います。