小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは(連載第4回)
「デジタルシェルフ総研」バイヤー対談企画。
DtoC攻略のヒントとなる小売業界の仕入れについて、某スーパーマーケットチェーンでバイヤー経験を持つF氏に、株式会社いつも.取締役副社長の望月が伺いました。本企画では、小売店舗とECの「違い」と「共通点」からDtoCを成功させるカギを見つけ、今後の小売店舗とECの役割・共存について考えます。
株式会社いつも. 取締役副社長 望月智之
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集しながら、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
元スーパーマーケットバイヤー F氏
関西の大手グループ系列のスーパーマーケットにて34年間勤務。バイヤー歴25年(カウンセリング化粧品、セルフ品、家庭用品等)、e-コマース営業部(ネット通販、ネットスーパー)部長2年担当。現在はセミナー講師やカウンセラーとして活動。
前回の記事では、スーパーマーケットのバイヤーさんがメーカー企業や問屋さんと売り場のテーマを共有しながら、いかに他社との差別化を図るかについてお伺いしました。そこから見えてくるD2C企業が小売に進出するためのヒントは、ぜひ前回の記事を参考にしてください。
今回は、バイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方について、F氏にバイヤーの立場からお話を伺いました。
小売店のバイヤーがチェックしている事とは
望月 すでに売れている商品は分かると思うんですけど、売れそうな商品ってどうやって情報を得るんですか?
F氏 まず私が担当していたのが化粧品だったので、街を歩いている女性を見ていますね。当時はLOFTさんのようなライフスタイルを提案するようなコンセプトショップで女性が何を見ているのかを見るようにしていました。
バラエティのあるコンセプトショップはベンチマークされているんですね。
あそこから売れる商品って結構ありますからね。そこを真似して大手さんとか物を作ったりしますから。
では、お店とか消費者が身につけているものを見て予測すると。
大事ですね。女性って当然メイクだけでなくファッションやバッグ、小物などトータルでどういうコンセプトで物を持つか変わってきます。それがナチュラル系のファッションに変わったらメイクもナチュラル系に変わっていって、眉毛の太さとか一番わかりやすいですよね。
たしかに。
少し前では眉毛が無いことのほうが多かったのが、今ではちゃんと眉毛がある方の方が多い。「着飾る」ということから、「自分を表現する」ということが多くなっていますよね。
なるほど。
目線を変えて全体から傾向を掴む
他には、例えばECとかAmazonで売れているとか、SNSで評判とかネット上も見たりされるんですか?
日本人は人の言うことは信じるという国民性なので、売れていると言われたら買わなければいけないという心理が働きますよね。なかにはそれだけでいいというような、ブランド志向の人はそうですよね。シャネルならシャネルだけで良いと。
一定数いらっしゃいますよね。
ところがそうじゃなくて、自分の事を大切にしている人こそ違う立ち位置から物を見たりするんですね。
自分の立ち位置ですか。
今、自分の立ち位置はどうなんだろうと考える人が何人いるかということです。1人なら別に影響ないんですけど、300人いるとしたらそこに何か手を打つことでそれ以外の人も来るかもしれない。そんな事も含めて世の中のことを見てないといけないですね。
全体を俯瞰して、傾向を掴む必要があるんですね。
私たちの頃はアットコスメさんとか、特に化粧をし始めた人たちってどうすれば良いのか分からないのでそういう所を見る方が多くいらっしゃいました。
SNSを見たりはしないですか? Instagramとか最近あるじゃないですか。
当時はアットコスメさんでしたが、今なら当然必要になるでしょうね。Instagramでメーカー側が意図的な販促をしていれば、そこにフォロワーが多い女性に商品を持ってもらったりしていますよね。
そういう流れもあるから、バイヤーさんに売り込むとしたらバラエティショップで人気とか、SNSで話題ということが売り込む要素になってくるということですかね?
売れているものに関してはそうですね。
あ、そうか。前回までの話では、売れているものの情報はそんなに求めていないんでしたよね。
バイヤーは売れる前に決めにいかないといけないので。
なるほど。スーパーのバイヤーさんにとっては、売れている商品の情報は売れてますよで別に終わりで、今売れている訳ではないけど、これから売れそうな商品の情報とか別の売り込み方が必要ということですね。
そうですね。そこは私の場合で言うと、コンセプト作りなので売れる1年前にそれを見に行かないといけないんですね。
そうか、なるほど。
だから開発の方とお話をしないといけない。
最初の話に繋がりましたね。メーカーサイドの主語で考えると、売り込むという主語になると思うんですけど、バイヤーさんの主語で考えると、コンセプトとかその時の店の仕掛けみたいなところを理解してフィットする商品の方が扱ってもらえるということなんですね。
そうですね。バイヤーの考えていることに商品を合わせることも大事かもしれないですね。それは同じ商品でも謳い文句1つで変わりますから。
謳い文句ですか。
はい。前回言ったような部分毛染めの商品も簡単便利ですというと面白くないんですよね。例えば、「あなたの髪は後ろから見られている」とか。
なるほど、だから部分的な染めが必要だと。やっぱり、メーカー的にはバイヤーさんと会話するのが一番早いんですね。
バイヤーが考えている事が何かを探ることがメーカーさんに必要なリサーチだと思います。
でもそれで言うと、卸さんが間に入っているからメーカーさんがバイヤーさんと密に話しているイメージってあまり無いんですけど。
それはバイヤーの動き方次第ですね。必要だと思ったらそれをしないといけません。問屋さんは情報も集約していて便利なんですけど、悪く言うとフィルターですから。情報がそのフィルターで落とされることもあるんですね。
たしかに、バイヤーさんが考えているコンセプトと合致していても、そのフィルターは問屋さんでは反映されづらいですもんね。
だから必要な情報は自分で取りに行かないといけません。逆に言えば、メーカーさんは活動されているバイヤーさんにはしっかり情報を持っていかないといけないと思います。
なるほど。
今回のまとめ
今回の対談で、小売のバイヤーさんは現在売れている商品よりもこれから売れる商品を探しているということが改めてよく分かりました。とはいえ、全体を俯瞰してこれから売れる商品を予測する必要があるため、売れている商品の情報も確認しながら、街なかやバラエティショップで顧客動向をチェックしたり、直接メーカーの開発さんとコミュニケーションを取るなど積極的に情報を集めています。
メーカーにとっても問屋さんは便利な存在ですが、それだけでは小売バイヤーにまで本当に伝えるべき情報が届かないことも多くあるようです。やはり直接バイヤーさんとコミュニケーションを取れる機会を作って、顧客目線で双方向に情報を共有する必要がありそうです。「小売店にはまだ出回っていないけど、1年後には求められる商品」になることが1つのテーマとなりそうです。
今回の記事はここまでです。
次回は小売におけるPBとNBのバランスの取り方について、F氏にバイヤー目線でのお話を伺いました。
(連載第1回)
小売のバイヤーに刺さる商品売込み時のポイントは、『店舗のコンセプト』
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21009/
(連載第2回)
小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?
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(連載第3回)
小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは
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(連載第4回)
小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは
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(連載第5回)
小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方
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(連載第6回)
バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21062/
(連載第7回)
これからの時代に求められるD2C商品とその情報発信
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