300万人突破へ こんなに多い物流業務の就業者数~産業・職業別就業者数をベースに推計~
小売業と卸売業の就業者数は1,000万人以上
2021年も年末に差し掛かりました。EC業界に関し数多くのニュースが報じられましたが、今年も物流関連の記事が多かった印象を受けます。引き続き拡大基調にあるEC市場において、EC事業者や物流事業者が、生命線とも言える物流機能を強化しようとする動きが見て取れます。見方を変えれば、非常に多くの人々が物流業務に携わっていると考えられます。そこで今回の記事では、総務省統計局発表の「労働力調査」における「産業,職業別就業者数」を基に、日本の物流の現状を就業者数の観点で俯瞰してみたいと思います。
はじめに、産業別の就業者数を見てみましょう。次の図表は、同調査で公開されている2020年の産業別の就業者数です。尚、左側の産業名称は同調査において使用されている名称を、一部を除きそのまま表記しています。最も多いのは製造業で1,045万人、次いで医療,福祉が862万人となっています。ECに関連する産業としては、小売業が3位で732万人、卸売業が8位で323万人、運輸業(主に貨物・荷物系)が9位で271万人となっています。小売業と卸売業はそれぞれ3位、8位のポジションですが、合算すれば1,055万人となり、製造業を抜いて1位となります。小売業、卸売業には多くの人々が関わっているということが良く理解できます。
300万人以上の就業者が物流業務を担っている
総務省統計局による労働力調査は、産業別かつ職業別での就業者数を集計しています。つまり、産業別(タテ軸)、職業別(ヨコ軸)で数字が整理されているということです。ここでいう職業別ですが、同調査では次のように大別されています。
① 管理的職業従事者、② 専門的・技術的職業従事者、③ 事務従事者
④ 販売従事者、⑤ サービス職業従事者、⑥ 生産工程従事者
⑦ 輸送・機械運転従事者、⑧ 建設・採掘従事者、⑨ 運搬・清掃・包装等従事者
⑩ 農林漁業従事者、⑪ 保安職業従事者
本記事の主題は、物流業務の就業者数です。同調査の職業分類内容例示に基づくと、①から⑨の中で、⑦の輸送・機械運転従事者がトラック運転手等、荷物の輸配送に関する従事者、⑨の運搬・清掃・包装等従事者が、倉庫等での保管、荷役、包装、流通加工に係る従事者ということになります。そこで、運輸業(主に貨物・荷物系)、卸売業、小売業、製造業をタテ軸、⑦、⑨をヨコ軸として次の表を作成してみました。
保管、荷役、包装、流通加工の就業者数が近年増加
ところで、同調査は2013年から現在の調査仕様となっています。そこで最新データである2020年の数値と、最も遡ることができる2013年の数値を対比させる形で次の2つの表を作成してみました。まず⑦輸送・機械運転従事者数ですが、2013年の108万人に対し2020年は109万人となっており、7年間でわずか1万人の増加にとどまっています。BtoC物流に限らずBtoB物流においても深刻なドライバー不足と言われていますが、増加する荷物に対しドライバーが十分に確保できていないことを、あらためてこの数字から読み取ることができます。
一方で⑨運搬・清掃・包装等従事者はどうでしょうか。2013年の234万人に対し、2020年は255万人とこちらは7年間で21万人も増加しています。内訳を見ると運輸業(主に貨物・荷物系)が7万人、小売業が14万人と大きく増えています。⑨は倉庫等での保管、荷役、包装、流通加工業務です。同調査によれば、小売業の総就業者数は2013年の728万人に対し、2013年は732万人と4万人増となっていますので(表中には記載してありません)、小売業では総就業者数の純増幅以上に、保管、荷役、包装、流通加工の就業者数が増えているという計算になります。仮説ですが、EC等によって荷物が増加したことにより、それらの業務負担が増し、結果的に人員増につながったと考えられないでしょうか。他方、ドライバーについては労働条件の厳しさから容易に人材を確保することが難しく、現在に至っているとの見方もできます。
倉庫業務におけるDX化
⑨運搬・清掃・包装等従事者が255万人であることから、保管、荷役、包装、流通加工業務には多くの労働力が投入されていることがわかります。併せてその数値が近年増加傾向であることも先述の通りです。一般的に考えれば、相当数の人々が関与している点、ならびにその人数が増加している点を考えると、倉庫内でのそれらの業務に関し非効率性や混乱が生じている事業者が多数存在する可能性があります。就業者数が多いという事実から想像するに、人海戦術によって業務を遂行している事業者も多いのではないでしょうか。そこで当該業務の非効率性や混乱を解消する手として、物流系のデジタルソリューションやオートメーション化があります。EC事業者の物流拠点に導入されている事例を目にするようになりましたので、一般化しつつある印象も受けます。例えば倉庫内での具体的な作業には、パレットへの積み付け、積み下ろし、商品の取り出し、商品の庫内搬送等の業務がありますが、それぞれ専用の物流ロボットが販売されており、その性能は日進月歩で進化していると言います。
- ロボットの利用を前提とした庫内レイアウトの設計
- ロボットの利用を前提とした業務フローの見直し
- 什器類・ケース等の標準化
- ロボットによって従業員がケガしないための安全対策のガイドライン策定とその徹底
以上の課題に対する対策を講じるにあたり、どのように導入すれば最も効果を発揮できるのか、トータル的なアドバイザリーやコンサルテーションも併せて重要でしょう。また、そもそも物流ロボットの価格が高価であるとの指摘もあります。物流ロボットが今以上に汎用化すれば製造コストが下がり、結果として手が届きやすい価格になることが期待されます。
まとめ
最後に、簡単ですが本記事のまとめを次に記します。ご参照いただければ幸いです。
- 小売業と卸売業の2020年の就業者数を合算すれば1,055万人となり、製造業を抜いて1位となります。小売業、卸売業には多くの人々が関わっているということが良く理解できます。
- 運輸業(主に貨物・荷物系)、卸売業、小売業、製造業で物流業務に携わっている就業者数は328万人と推計されます。2020年の総就業者数6,676万人のうち、約20人に1人はこの4産業において物流業務に携わっていることになります。
- 保管、荷役、包装、流通加工の就業者数が近年増加しています。特に小売業では総就業者数の純増幅以上に、保管、荷役、包装、流通加工の就業者数が増えています。EC等によって荷物が増加したことにより、それらの業務負担が増し、結果的に人員増につながったと考えられます。
- 物流ロボットを用いることで、業務の効率化や労働生産性の向上が図られるものと期待されます。しかしロボットの利用を前提としたレイアウト設計、業務フローの見直し、什器類・ケース等の標準化、安全対策の徹底といった課題が想定されます。