公開日:2023年8月28日

【消費行動考察シリーズ】 No.1 小売業態別の売上推移からリアル回帰を読み解く

【消費行動考察シリーズ】 No.1 小売業態別の売上推移からリアル回帰を読み解く

消費者の消費行動は様々な外的要因によって常に変化しています。したがってその適切な理解は自社の売上を最大化する上で必要不可欠と言えます。本記事は【消費行動考察シリーズ】と題し、消費者の消費行動を多面的に捉え考察を試みたいと考えています。

第1回目は小売の各業態別の売上推移から消費者のリアル回帰の状況を読み解きます。新型コロナウイルス感染症の法的位置付けが5類感染症に移行したことに加え、人々がウィズコロナとの付き合い方に慣れたことも手伝って、人流が大幅に回復していると言われています。必然的にリアルチャネルの売上が増加しているものと推測されます。そこでコロナ前である2019年からの小売業における売上の推移や、直近の各事業者の状況を業態別に捕捉し、消費者によるリアル回帰の状況やコロナによる消費の変化について探ってみましょう。

百貨店業界

足元の売上高

まずは百貨店売上を見てみましょう。2023年のQ1、Q2の売上高は1兆2,773億円、1兆2,612億円と前年同期比でそれぞれ14.2%、6.8%増加しています。また2022年も全ての期において前年(2021年)同期比でプラスです。この流れが継続すれば2023年は通年で前年越えとなることが予想されます。物価高騰による売上高の押し上げも想定されますが、2023年の消費者物価上昇率は2~3%と言われているため(※1)それを差し引いても明らかに売上高は伸びています。参考までに訪日外国人が増加していることからインバウンド需要も回復すると見込まれます。

※1 参考:”日銀、物価見通し引き上げ 23年度2.5%上昇”、2023年7月28日、日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB282QD0Y3A720C2000000/)参照2023年8月28日・”物価上昇率は緩やかに低下もガソリン価格上昇は懸念材料(7月全国CPI)”、野村総合研究所コラム(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0818_2)・”2023・2024年度経済見通し(23年8月)”、ニッセイ基礎研究所レポート(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75850?site=nli)・”2023・2024年度日本経済見通し(2023年8月)(2023年4-6月期GDP1次速報後改定)”、第一生命経済研究所(https://www.dlri.co.jp/report/macro/271170.html

 

事業者の状況

事業者の決算説明資料から、人流が増加し売上が好調である状況を理解することができます。

長期トレンド

2020年4月に緊急事態宣言が発令され消費者が外出を大幅に控えたこともあって、百貨店の売上は大幅に下落しました。2020年Q2の売上高は6,554億円と前年(2019年)同四半期の約半分です。それ以降はグラフの通り百貨店業界は徐々に売上高を伸ばし続けており、2023年に入って復活が本格化した感があります。しかしながら2019年との比較で言えば業界全体では2023年はまだその水準に達していません。売上高には伸び代が残されており、消費者は今後さらに百貨店へ足を運ぶ機会が増えると想定されます。

全国百貨店売上高の四半期推移(単位:億円)

出所:「全国百貨店売上高概況」(一般社団法人日本百貨店協会)発表データをもとに作成(https://www.depart.or.jp/store_sale/

コンビニ業界

足元の売上高

つづいてコンビニ業界です。2023年のQ1、Q2の売上高はそれぞれ2兆9,751億円、3兆1,535億円と前年同期を上回っています。ただしQ1、Q2の伸びは5.4%、4.8%となっており、百貨店と比較すれば伸びは限定的です。物価高騰分を考慮するとコンビニ業界の実質的な売上高は微増との見方が適当でしょう。

事業者の状況

事業者の決算説明資料からコンビニ業界は堅調であることがうかがえます。

長期トレンド

百貨店業界ほどではありませんがコンビニ業界もコロナの影響を受け、2020年は売上高が前年割れになりました。しかしグラフから見て取れるようにその下落レベルは小幅にとどまっています。足元の売上高は堅調なため消費者によるコンビニ需要は底堅いと言えるでしょう。言い換えれば多くの消費者にとってコンビニはコロナや物価高騰といった外的要因に大きく左右されることがない確固たる存在であることが、データから読み解くことができます。

コンビニエンスストア売上高の四半期推移(単位:億円)

出所:「商業動態統計調査」(経済産業省)をもとに作成(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

スーパーマーケット業界

足元の売上高

スーパーマーケット業界を見てみましょう。2023年のQ1、Q2の売上高はそれぞれ3兆7,113億円、3兆8,127億円と前年同期比でプラスとなっています。しかしながらQ1、Q2の伸び率は1.8%、3.8%増となっており、物価高騰を考慮すると実質的な意味で売上は伸びているわけではなさそうです。2022年の状況も前年(2021年)から変化はありませんが、物価高騰は既に2022年から生じていたため、実質的に横ばい、あるいは若干のマイナスであったかもしれません。つまり直近は物価高騰の影響を受け、消費者の行動はやや鈍くなっていると考えられます。

事業者の状況

以下の大手2社の場合コロナの5類移行が売上拡大にプラスに作用しています。業界全体では実質的に伸びていないと思われますので、各社毎に様相が異なっているかもしれません。

長期トレンド

コロナの拡大がはじまった2020年のQ2からQ4にかけてスーパーマーケットの売上高は大幅に伸びました。これはステイホームにより家庭で過ごす時間が増加したため、食料等の購入が増加したことが主因と考えられます。その後の動きに大きな変化は見られませんが、上述の通り足元の状況は実質的に横ばい、あるいは若干のマイナスと考えられます。

スーパーマーケット売上高の四半期推移(単位:億円)

出所:「商業動態統計調査」(経済産業省)をもとに作成(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

家電量販店業界

足元の売上高

家電量販店の状況もチェックしてみましょう。2023年のQ1、Q2の売上高はそれぞれ1兆1,936億円、1兆578億円と前年同期をいずれも下回っています。2022年もQ4を除いて前年同期比でマイナスとなっており、足元の経営環境は厳しい状況となっているようです。

事業者の状況

個別の事業者の状況は全体の動きと一致しており、現場レベルでは厳しい経営状況を強いられているようです。

長期トレンド

コロナ禍の2020年、特別定額給付金として政府から国民1人あたり一律10万円が支給されました。その使い道の一つとして家電が購入されたことで家電量販店の売上高は伸びました。しかし2021年のQ2以降は厳しい状況が続いています。家電は通常耐用年数が長く価格も高額なものが多いため、コロナの5類移行や人流が回復しても、それに連動して売上高が伸びるという性質ではないということでしょう。一方で訪日外国人が2023年に入って増加していますので、インバウンドへの期待が大きいと思われます。

家電量販店売上高の四半期推移(単位:億円)

出所:「商業動態統計調査」(経済産業省)をもとに作成(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

まとめ

最後に本記事のまとめを記します。

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