【消費行動考察シリーズ】 No.2 消費者による支出額の変化から見えてくる消費の現状
消費者の消費行動は様々な外的要因によって常に変化しています。したがってその適切な理解は自社の売上を最大化する上で必要不可欠と言えます。本記事は【消費行動考察シリーズ】と題し、消費者の消費行動を多面的に捉え考察を試みたいと考えています。
第1回目は小売の各業態別の売上推移から消費者のリアル回帰の状況を読み解きました。第2回目の今回は、各商材やサービスに対する“消費者の支出額の変化”の視点から、コロナ後の商材カテゴリーごとの現状をさぐります。使用するデータは1家計あたりの平均支出額について、商材・サービスごとに細かく集計されている「総務省統計局家計調査」を用い考察を試みることとします。
※本記事で使用している「上半期」という表現は、各年1月~6月を指しています。ご留意ください。
現状考察① コロナで打撃を受けた商材・サービス
はじめにコロナで打撃を受けた商材・サービスの現状についてデータをもとに考察してみましょう。
【外食】
2023年上半期の1家計あたりの平均支出額は72,594円となっています。コロナ禍の2020年、2021年上半期はそれぞれ54,949円、50,559円でしたので、グラフの形状通りV字回復となっています。ピーク時の2019年の79,948円までは届いていないものの、2023年はその約9割まで回復していますので、回復度合いは相当なレベルです。外食は消費者によるリアル回帰の象徴のような業界ですので、換言すればこのデータから消費者のリアル回帰が確実に生じていることがわかります。
【旅行】
2023年上半期の1家計あたりの平均支出額は21,515円となっています。ここでいう「旅行」には宿泊料、および国内/海外のパック旅行が含まれており、電車等の交通機関は後述の「交通」に含まれている点にご留意ください。コロナ禍の2020年、2021年の上半期はそれぞれ9,065円、6,981円でしたので、外食同様V字回復となっています。ただしピーク時の2019年と比較すれば、2023年の数値はその7割程度です。おそらく国内旅行は回復しているものの、海外旅行がまだピーク時まで戻っていないことがその要因でしょう。
【交通】
ここでいう「交通」とは電車、バス、タクシー等の乗車料金、および高速道路の通行料金を指します。2023年上半期の1家計あたりの平均支出額は26,872円となっており、外食、旅行同様にV字回復していることがよく理解できます。交通には個人旅行や出張用途での交通機関の利用、ならびに通勤・通学や買い物での外出といった日々の生活での交通機関の利用が含まれます。いずれの用途であっても交通はリアルの行動そのものですので、支出額の上昇は消費者がリアル回帰している証にほかなりません。
【化粧品】
2023年上半期の1家計あたりの平均支出額は21,810円となっており、2023年に入ってようやく上昇に転じました。外食、旅行、交通に関してはGo to Eat やGo Toトラベルといった政府による支援策が展開されていたこともあって2022年には既にV字回復が始まっていました。しかし化粧品にはそのような支援制度は存在していません。化粧品の支出額が2023年上半期になって上昇に転じた理由は、コロナが収束し5類に移行したことによる消費者の外出機会の増加と考えられます。消費者のさらなるリアル回帰により一層の需要増が期待されます。
現状考察② コロナで追い風を受けた商材
続いてコロナで追い風を受けた商材の現状についてデータをもとに考察してみましょう。
【家電】
2023年上期の1家計あたりの平均支出額は30,822円でした。家電はコロナ禍の2020年、2021年と追い風を受けていましたが、2022年に下落し2023年は横ばいの状態です。自宅で有意義な時間を過ごしたいとのニーズから家電の支出額は2021年まで伸び続けました。2020年に国民1人ひとりに給付された10万円の特別定額給付金の使い道として家電が選ばれたという点もプラスに影響したと考えられます。一方家電は高額かつ耐用年数が長い商材が多いため、例えば消費税の増税前の駆け込み購入といったまとまった需要の直後は反動が大きいと言われています。2022年から続く横ばいの現状はそれに近い状態と思われます。
【雑貨・家具】
ここでいう「雑貨・家具」とは寝具、インテリア、家具類のほか、食器、プラスチック容器、洗濯用洗剤、トイレットペーパー等の日用品が該当します。2023年上期の1家計あたりの平均支出額は37,294円でした。雑貨・家具も家電と似たグラフの形状です。すなわちコロナ禍で2021年まで需要が伸びたのですが、2022年に下落し2023年は横ばいの状態です。10万円の特別定額給付金の使い道が家電のみならず家具やインテリアにも向かったため、家電と同様の傾向になっていると言えるでしょう。また日用品については、自宅で過ごす時間が長ければ長いほど必然的に日用品の支出額は増加します。2023年は横ばい状態ですが今後消費者の外出機会がさらに増加すれば2019年頃の支出額に落ち着くとも想定されます。
【医薬品】
2023年上期の1家計あたりの平均支出額は25,756円でした。医薬品には薬以外に消毒液やマスクを含んでいます。したがって2020年上半期は27,526円とピークを付けた形となっています。この時期は消毒液やマスクが品薄のため市価が上昇し、またまとめ買いも目立ったことから支出額が増加したと考えられます。2021年以降はその状況が改善されたため下落し2023年は2022年と同レベルの状態となっています。なお医薬品の場合はコロナやインフルエンザと言った外的要因の影響を大きく受けることから、今後の需要を正確に予想することが難しい側面があります。
現状考察③ コロナで明暗が分かれた「食品」と「アパレル」
生活の基本は衣・食・住です。そこで「食品」と「アパレル」にスポットを当ててみましょう。調べてみると実は両者でコロナを境に明暗が分かれていることがわかりました。
【食品】
2023年上期の1家計あたりの平均支出額は335,821円でした。食品は家計に占める比率が最も高いカテゴリーです。コロナ禍において自宅で過ごす時間が増加したため2020年の支出額は331,372円と前年から大きく伸びました。2022年には前年比をわずかに下回りましたがそれでもコロナ以降は2019年までの水準を大きく上回っている状態が継続しています。いわばコロナを契機に市場規模が拡大したと言っても良いでしょう。なお2023年に入り物価が一層高騰しており、支出額増加の一因となっている点には留意が必要です。
【アパレル】
2023年上期の1家計あたりの平均支出額は59,556円でした。数字を見る限りアパレルはコロナの影響を最も受けたカテゴリーと言っても過言ではありません。2019年上半期が72,837円でしたので大幅な下落です。以降も2019年レベルまでの回復には遠い状況が続いています。とは言え2020年の54,815円と比較すると2023年は5千円近く伸びています。アパレルは消費者のリアル回帰によって化粧品同様に回復が期待されるカテゴリーです。2019年の水準に戻るまでには時間がかかるかもしれませんが、裏を返せば伸び代があるとの見方もできます。
まとめ
最後に本記事のまとめを記します。
コロナで打撃を受けた商材・サービス
「外食」「旅行」「交通」といったサービス分野はコロナで打撃を受けましたが、程度の差はあれどもV字回復となっています。
「化粧品」についてもようやく2023年上期に上昇に転じました。消費者の外出機会の増加が主因と考えられます。
「外食」「旅行」「交通」「化粧品」の支出額の回復傾向から、消費者がリアル回帰していることがよく理解できます。
コロナで追い風を受けた商材の現在地
「家電」は自宅で有意義な時間を過ごしたいニーズや特別定額給付金の使途となったこともありコロナ禍で追い風を受けました。しかしその後下落し2023年上半期は需要の反動で横ばい状態となっています。
特別定額給付金の使途が家具やインテリアにも向かったため、「雑貨・家具」も家電と似た状態です。日用品についても快適なおうち時間を過ごすため需要が増加しましたが2023年前半は前年比で横ばい状態です。今後消費者の外出機会がさらに増加すれば2019年頃の支出額に落ち着くとも想定されます。
「医薬品」についてはコロナ禍1年目の2020年は消毒液やマスク需要の急拡大で支出額が増加しましたが、2021年以降はその状況が改善されたため下落し2023年は2022年と同レベルの状態となっています。
コロナで明暗が分かれた「食品」と「アパレル」
「食品」はコロナ禍において自宅で過ごす時間が増加したため支出額が大きく伸びました。以降も2019年までの水準を大きく上回っている状態が継続しています。いわばコロナを契機に市場規模が拡大したと言っても良いでしょう。
一方で「アパレル」は2020年に大きく下落し、コロナの影響を最も受けたカテゴリーと言えます。以降も2019年レベルまでの回復には遠い状況が続いていますが2020年の54,815円と比較すると2023年は5千円近く伸びています。アパレルは消費者のリアル回帰によって化粧品同様に回復が期待されるカテゴリーです。