【消費行動考察シリーズ】消費支出の変化 2024年版

2025年2月に、総務省より2024年の年間での支出額が「家計調査」の結果として公表されました。この家計調査は細かな項目ごとに1家計あたりの支出額が集計されており、消費動向を把握する上でとても参考になります。ECの支出面でも同様であり、経済産業省の電子商取引に関する市場調査においても、EC化率算出のベースになっているとされています。
今回は2024年のデータを、2014年、2021年のデータと比較し、前者についてはこの10年間という長期での消費支出の変化、後者については直近3年間の消費支出の変化ついて考察を試みたいと思います。
具体的には「1. 全体概要」「2. 食品」「3. アパレル・服飾雑貨」「4. 家電・PC等」「5. 化粧品」について考察します。家計調査は細かい項目毎に集計されているため、それらをカテゴリー毎に弊社独自で集計したうえで考察いたします。
全体概要
はじめに物品購入分野、サービス分野それぞれの1家計あたりの年間支出額の推移を見てみましょう。2024年の物品購入分野の支出額は161.7万円と前年比で1.6万円増でした。またサービス支出分野は118.9万円とこちらも前年比2.3万円増となっています。
【2014年→2024年(直近10年)】
物品購入分野は3.94%の増加、サービス支出分野は0.81%の増加となりました。物品購入分野は安定的な推移という見方ができますが、他方この10年間で支出額に大きな変動がないため、日本の小売市場が成長していないとも言えます。しかし大企業を中心に給与水準の引き上げが行われており、また物価も引き続き高騰が続いていますので、今後の支出額は両分野共に少しずつ増加する可能性が想定されます。
【2021年→2024年(直近3年)】
物品購入分野は5.88%の増加、サービス支出分野は11.06%の増加となりました。アフターコロナという言葉を耳にする機会が減少し、社会は通常モードになっています。物品購入分野、サービス支出分野共に回復基調にあります。特にサービス支出分野は2020年を「底」に回復が鮮明となっており、旅行、外食といった分野が復調している様子がうかがえます。


食品・飲料
2024年の食品・飲料(酒類含む)の1家計あたりの支出額は729,260円となりました。グラフの通り食品・飲料の支出は10年前から一貫して増加傾向にあります。
【2014年→2024年(直近10年)】
13.85%の増加となりました。2014年より大きく増加しているのは、肉類、菓子類、調理済み食品(弁当、総菜など)、生鮮野菜です。特筆すべきは調理済み食品です。10年間で4割弱伸びており、家事の簡素化が進行していることがうかがえます。反対に減少しているのは魚介類、健康保持用接種品(サプリメント等)です。また大きな変化がないのは酒類となっています。
【2021年→2024年(直近3年)】
6.03%の増加となりました。2020年はコロナ禍におけるステイホームの影響で、自宅で過ごすことを目的とした食品購入が進みました。その後2022年まではほぼ横ばいでしたが2023年、2024年と再び上昇トレンドとなっています。これは明らかに物価上昇に伴う支出の増加でしょう。長続きする円安、エネルギーコストの上昇、労働者の賃金上昇などによって、当面も間、食品・飲料の増加傾向は変わらないと思われます。


アパレル・服飾雑貨
2024年のアパレル・服飾雑貨の1家計あたりの支出額は92,306円となりました。ここでいう服飾雑貨とはバッグ、靴、アクセサリー、帽子、傘等を指します。グラフを見て分かるように、長期トレンドとして減少傾向です。しかし2024年は反転の兆しが見られ、市場規模は下げ止まりした可能性が考えられます。
【2014年→2024年(直近10年)】
25.04%の減少となりました。当カテゴリーについては、メンズ、レディース問わず支出額は減少しています。またアウター、シャツ類、インナー、バッグ、靴等、カテゴリーに係わらず下落している点も特徴的です。その背景には、ファストファッションの台頭による影響が考えられます。近年はTEMU、SHEINが台頭してきていますので、低価格商品を求める消費者ニーズは堅調だと思われます。
【2021年→2024年(直近3年)】
7.76%の増加となりました。長期トレンドとして下落傾向にあった当カテゴリーですが、2020年のコロナ禍で打撃を受けた後、グラフの通り回復傾向が見られます。アパレル・服飾雑貨市場の下落はコロナ禍で“底”を打った感があり、今後の上昇が期待されます。長期的にはファストファッションが支出減少の理由と考えられますが、一方で“リベンジ消費”によって高額な商品も比較的購入されているのではと推測され、今後の上昇に期待がかかります。


家電・PC等
2024年の家電・PC等の1家計あたりの支出額は68,539円となりました。グラフの通り、長期トレンドとして当カテゴリーの支出は微増傾向にあります。
【2014年→2024年(直近10年)】
27.01%の増加となりました。この10年で前年割れが2回ありました。1回目の2015年は消費税の増税による駆け込み需要の反動です。2回目の2022年は、コロナ禍での家電需要の伸びの反動だと思われます。しかし二度の前年割れを経てトレンドとしては上昇傾向にあります。家電は大型の白物家電の他、美容家電、キッチン家電、PC等の情報機器など様々です。定期的に何らかの製品の買い替えニーズが訪れていると考えられますので、長期的に見て大きく崩れることは無いように思われます。
【2021年→2024年(直近3年)】
1.79%の増加となりました。コロナ禍での家電需要が高まった後、2022年はその反動がきましたが、2023年、2024年は微増となっています。家電には電子部品が多く使われています。政情不安や円安の影響で電子部品の価格上昇が続いており、家電の支出額はさらに増加する可能性が高そうです。


化粧品
2024年の化粧品の1家計あたりの支出額は49,913円となりました。コロナ禍で支出額が減少しましたが、グラフの通り増加に転じています。
【2014年→2024年(直近10年)】
17.81%増加となりました。内容を詳細に比較してみると、いわゆるコスメ商品は10年間で微増に止まっていますが、ボディケア、ヘアケア関連の商品の支出が27%伸びており、このことが支出額全体の増加に結び付いています。
【2021年→2024年(直近3年)】
10.01%の増加となりました。グラフの通りコロナ禍で支出は減少しましたが、2023年、2024年と増加しています。2021年と比較すると2024年はヘアケア、ボディケアも伸びていますが、それ以上にコスメ商品が伸びており、3年間で支出が13%増えています。コロナの収束によって外出機会が増えたことが、コスメの支出増加の要因でしょう。

