国内動向

ネットスーパー事業の現在地

投稿日:

ネットスーパー事業の現在地

緊急事態宣言などが発令されたことで、2020年から2021年にかけてネットスーパーの消費者需要が大きく伸びたことは既にご存じのことと思います。今回の記事は、入手可能なデータや情報を用いて、GMS(General merchandise store:総合スーパー)、スーパーマーケットにおけるネットスーパーの取り組みに焦点をあてて、その状況等を俯瞰してみたいと思います。

市場規模は大きいがEC化率は低い飲食料品のEC

はじめに飲食料品のEC市場規模をおさらいしましょう。経済産業省が2021年7月に発表した令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)によれば、飲食料品のEC市場規模は2兆2,086億円、EC化率は3.31%です。また、同調査結果の過去分を遡って飲食料品のEC市場規模の経年推移をまとめたものが次のグラフです。

2013年は1兆円に満たなかった同市場規模ですが、年々増加しており、7年後の2020年には2兆円を突破しました。特に2020年に大きく伸びたことがわかります。しかし、EC化率はその2020年でも3.31%であり、全体のEC化率8.08%と比較すれば低い値となっています。これはEC化率の分母となる飲食料品の商取引市場規模が非常に大きいことに起因します。見方を変えれば、飲食料品のEC市場は伸びしろを残しているとも予測でき、ネットスーパーがその伸びしろを埋めることができるとも考えられます。

 

 

出所:電子商取引実態調査(経済産業省)を加工して作成

 

スーパーの経営規模とネットスーパーの実施率は比例の関係

上場企業の決算発表資料を見ると、ネットスーパーが好調である様子が分かります。消費者によるネットスーパーの認知度は高まっていると考えられ、緊急事態宣言が解除された後も、インターネットで飲食料品を購入するという行動変容は少しずつ定着してきているようにも想定されます。

では、全てのGMS、スーパーマーケットはネットスーパー事業に取り組んでいるのでしょうか?

もしそうでないとしたら、どれくらいの比率で取り組まれているのでしょうか?一般社団法人全国スーパーマーケット協会が2021年10月に公開した「2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書に興味深いデータが掲載されています。同報告書では保有店舗数別でのネットスーパーの実施率に関するアンケート結果が記載されており、それを以下の通りグラフ化してみました。(調査実施期間2021年7月~2021年8月 回答数278社)

 

出所:2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書(一般社団法人全国スーパーマーケット協会)記載のデータを加工して作成

保有店舗数が1~3店舗のスーパーでは、ネットスーパーの実施率が3.0%ですが、保有店舗数の規模が大きくなるにつれて実施率が上昇していることがよくわかります。51店舗以上を構えるスーパーでは、ネットスーパーの実施率は41.2%にも達しています。この数値を見る限り、スーパーの経営規模とネットスーパー事業の実施率は比例の関係にあると言えます。換言すれば、ネットスーパー事業を実施するためには、経営規模がカギを握るということになるでしょう。

ネットスーパーに関する議論の中には、ネットスーパー事業はコスト増や体制強化が必要であり、収益性について課題を抱えていると論じているものがあります。仮にこの説が正しいとの考えに立ち、かつ今後も消費者がネットスーパーの利用を好む傾向が継続し、定量的な需要量が増え続けるとの仮定を置いたとしましょう。そうすれば経営体力のある大規模スーパーマーケットと、経営規模が大きくないためにネットスーパーを実施したくても実施できない中小のスーパーマーケットとの間で、二極化の状態が生じてしまうことになります。経営規模の差でネットスーパー事業の取り組みの可能/不可能に差が生じるのであれば、良いことではないように思われます。コストダウンを実現でき得るアイデアや実施体制の支援など、いずれ何らかの施策が必要になるかもしれません。

売上高に占めるネットスーパー売上の比率はまだ低い

もう1点、同協会のレポートには興味深いデータが掲載されています。次の表は、売上高に占めるネットスーパー売上の比率を保有店舗数の規模別にまとめたものです。保有店舗数による経営規模の相違によって、比率に差があることがよく理解できます。しかしながら、先述の通り飲食料品のEC化率は3.31%であり、その点を踏まえれば、ネットスーパー売上の比率(言い換えればスーパーマーケットのEC化率)はそれほど高くないことがわかります。この数値から想像するに、ネットスーパー事業はひょっとするとまだ手探りの状態であり、解決できていない課題が残っている可能性があるかもしれません。消費者側に目を向けると、ネットスーパーとそれ以外の飲食料品のEC事業者とを上手く使い分けていることも想像されます。いずれにせよ、このデータからネットスーパーは未だ発展途上であるということが言えるのではないでしょうか。

 

 

出所:2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書(一般社団法人全国スーパーマーケット協会)記載のデータを加工して作成

まとめ

最後に本記事のまとめを記します。

  • 飲食料品のEC市場規模は2020年に2兆円を突破しましたが、EC化率は3.31%と低い値となっています。これはEC化率の分母となる飲食料品の商取引市場規模が非常に大きいことに起因します。裏を返せば、飲食料品のEC市場は伸びしろを残しているとも予測できます。
  • GMSやスーパーマーケットを展開する上場企業の決算説明資料を見ると、ネットスーパーの売上状況が良好であることがわかります。
  • スーパーの経営規模とネットスーパー事業の実施率は比例の関係にあると言えます。ネットスーパー事業を実施するためには、経営規模がカギを握るということになります。経営規模の差でネットスーパー事業の取り組みの可能/不可能に差が生じるのであれば、良いことではないように思われます。コストダウンを実現でき得るアイデアや実施体制の支援など、いずれ何らかの施策が必要になるかもしれません。
  • 売上高に占めるネットスーパー売上の比率はそれほど高くないことがわかりました。ネットスーパー事業はひょっとするとまだ手探りの状態であり、消費者もネットスーパーとそれ以外の飲食料品のEC事業者とを上手く使い分けていることが想像されます。いずれにせよ、ネットスーパーは未だ発展途上であるということが言えるのではないでしょうか。

投稿者プロフィール

立川 哲夫(たつかわ てつお)
立川 哲夫(たつかわ てつお)
株式会社いつも 執行役員 DX戦略グループ
D2Cモデル構築支援、販路DX支援、デジタルシェルフ総研の主任研究員を務めている。大手メーカー・老舗企業のECスタートアップ、D2C参入時の戦略・人材育成、海外展開戦略立案サポートを行いながら、企業向けEC研修・セミナーの講師・EC業界専門紙・メディアへの寄稿も多数行う。著書に「EC戦略ナビ」「EC担当者 プロになるための教科書」などがある。

-国内動向

Copyright© デジタルシェルフ総研 , 2022 All Rights Reserved.