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【定点観測】Amazonの決算発表 ~22年上期は当期純利益は赤字も売上高は堅調~

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【定点観測】Amazonの決算発表 ~22年上期は当期純利益は赤字も売上高は堅調~

米国Amazonは7月28日(現地時間)に2022年の第二四半期の決算発表を行いました。営業利益(Operating income)は黒字であったものの、当期純利益(Net income)は2四半期連続で赤字となりました。デジタルシェルフ総研ではEC市場動向のキャッチアップをテーマのひとつとしていますので、米国におけるECの市場動向の把握を目的に、本レポートではAmazonの決算状況を2017年からの経年推移とともに定量的に捉えてみようと思います。

 

当期純利益は2四半期連続で赤字であるものの売上高は引き続き増加

まずは決算の全体概要です。次の表は5四半期連続での主要な決算項目をまとめたものです(同社の決算月は毎12月末です)。2022年第2四半期の売上高(下表①)は121,234百万USドルと前年同期比でプラス7.2%となっています。一方当期純利益(下表⑦)はマイナス2,028百万USドルと2四半期連続での赤字決算となりました。費用が117,917十億USドルと前年同期比でプラス11.9%と大きく増加している点もありますが、営業外収益(下表④)の大幅なマイナスが当期純利益に大きく影響している結果となっています。

 

5四半期連続_決算概要(単位:百万USドル)(赤カッコはマイナス)

出所:「Quarterly results」(米Amazon社)のデータを加工して作成

https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx

 

世界全体のEC市場規模の拡大ペースを上回る売上増加率

続いてAmazonの売上の推移に着目してみましょう。次のグラフは売上種類別の四半期推移を表したものです。全体的に右肩上がりになっていることがわかります。2022年第2四半期の売上が121,234百万USドル、5年前の2017年第2四半期の売上が37,955百万USドルですので、5年で3.19倍の拡大です。年換算で平均成長率を計算すると26.1%になります。一方で、世界全体のEC市場規模を見てみると、2017年は2,382十億USドル、2022年の予想は5,542十億USドル、この間の年平均成長率は18.4%とになります。したがってAmazonの売上拡大のペースは全世界のEC市場規模の拡大ペースを上回っていることになります。当期純利益は2四半期連続で赤字ですが、売上高は堅調であるように見えます。

 

Amazon全体の売上種類別の四半期推移(単位:百万USドル)

出所:「Quarterly results」(米Amazon社)のデータを加工して作成

https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx

 

全世界のEC市場規模推移(単位:十億USドル)※2022年以降は予想

出所:「Retail e-commerce sales worldwide from 2014 to 2025」(eMarketer)のデータを加工して作成

https://www.statista.com/statistics/379046/worldwide-retail-e-commerce-sales/

自社ECからサードパーティECへのシフト

同社は「自社EC売上」および「サードパーティEC手数料」の二つが主要な売上項目になっています。この二つの売上項目に関し、四半期毎の売上の拡大状況を可視化できるよう次のグラフを作成しました。自社売上ですが、常に前年同期比プラスで推移していたところ、2021年の第4四半期、2022年の第1四半期、第2四半期と、3四半期連続で前年同期比マイナスとなっています。他方サードパーティEC手数料の方ですが、前年同期比でマイナスになることはなく、順調に売上が拡大している様子がうかがえます。この傾向から、同社は自社ECすなわちファーストパーティECからサードパーティECへビジネスモデルを少しずつシフトさせている可能性が考えられます。ただし、現段階では断定的なことが言えないため、引き続き今後の売上動向について注視したいと思います。

 

自社EC売上

サードパーティEC手数料

出所:「Quarterly results」(米Amazon社)のデータを加工して作成

https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx

北米以外の売上が2四半期連続でマイナスである一方、AWSは好調

AmazonはIR説明資料上、「北米売上」「北米以外の売上」「AWS(Amazon Web Services)売上」の3分類でもデータを公開しています。それらを次の通りグラフ化してみました。加えてそれぞれ四半期毎の売上推移グラフも作成しました。このグラフを見ると次のことがわかります。

  • 北米売上、AWS売上は前年同期比でプラスを継続しており堅調
  • 一方、北米以外の売上が2021年第4四半期、2022年第1四半期と3四半期連続で前年同期比マイナス

特にAWS売上ですが、グラフからもわかるように右肩上がりの傾きが大きく、事業が伸びている様子がうかがえます。2017年第2四半期において、AWSが売上全体に占める比率は10.8%でしたが、2022年第2四半期の比率は16.3%です。このような傾向から今後もAWSが占める売上比率の上昇が予想されます。

 

Amazon全体の売上推移(米国売上、米国以外の売上、AWS売上)

 

北米売上

北米以外の売上

AWS(Amazon Web Services)売上

 

出所:「Quarterly results」(米Amazon社)のデータを加工して作成

https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx

 

営業利益面ではAWS頼みの構図

一方、この売上3分類について、費用、営業利益について触れたいと思います。次の表のように、北米の売上は前年同期比でプラスを継続しているものの、営業利益は3四半期連続で赤字です。北米以外も4四半期連続で営業利益が赤字となっており、AWSのみが黒字です。冒頭、当期純利益は赤字であることをお伝えしました。営業利益は黒字ですが、分解してみるとAWS以外実は営業利益は赤字です。営業利益ベースで捉えれば、北米、北米以外の赤字分をAWSが補っているという構図になっています。AWS以外の事業について、費用が膨らんでいることが赤字の要因ですが、そのような状態が続けば今後もAWSが利益面での頼みの綱である状況が継続するかもしれません。

5四半期連続_北米、北米以外、AWSの決算概要(単位:百万USドル)(赤カッコはマイナス)

出所:「Quarterly results」(米Amazon社)のデータを加工して作成

https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx

 

まとめ

最後に本レポートのまとめを以下に記します。

 

  • 2022年第2四半期の売上高は121,234百万USドルと前年同期比でプラス2%となっています。一方当期純利益はマイナス2,028百万USドルと2四半期連続での赤字決算となりました。
  • 当期純利益は2四半期連続で赤字ですが、Amazonの売上拡大のペースは全世界のEC市場規模の拡大ペースを上回っており、売上高は堅調であるように見えます。
  • 自社売上が3四半期連続で前年同期比マイナスとなる一方、サードパーティEC手数料は前年同期比でマイナスになることはなく、順調に売上が拡大しています。この傾向から、同社はファーストパーティECからサードパーティECへビジネスモデルを少しずつシフトさせている可能性が考えられます(ただし今後も要チェック)。
  • 売上の中でもAWS売上がとても好調です。2022年第2四半期の売上全体に対するAWS売上の比率は3%です。今後もAWSが占める売上比率の上昇が予想されます。
  • また全体では営業利益は黒字ですが、AWS以外(北米売上、北米以外売上)の営業利益は赤字です。AWS以外の事業について、費用が膨らんでいることが赤字の要因ですが、そのような状態が続けば今後もAWSが利益面での頼みの綱である状況が継続するかもしれません。

投稿者プロフィール

本谷知彦
本谷知彦株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役
元大和総研チーフコンサルタント。1990年大和総研入社。証券系SE、IT特化の主任研究員、金融システムコンサルタントを経て、2013年より同社のコンサルティング部門にて企業の海外進出やデジタル事業に係る調査・コンサルティングに従事。2014年から2020年にかけて7年連続で経済産業省の電子商取引市場調査を手掛ける。2021年12月末に同社を退職し、2022年1月、ECを含むデジタルコマースに特化した日本初のシンクタンク「デジタルコマース総合研究所」を設立。現在に至る。

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