公開日:2020年12月17日

2020年で変化した消費者ニーズへの対応は共感と信頼

YouTubeとEC売上の関係

2020年のEC売上を見てみると、「巣ごもり需要」でダンベルやゴムチューブといった運動器具がよく売れています。同時にYouTubeでのフィットネス動画の閲覧数も増加するなど、様々なデータが巣ごもり需要増加の結果を裏付けています。

YouTubeを見てECで関連商品を購入する人の増加
YouTubeを見てECで関連商品を購入する人の増加

新たな消費行動として特に注目したいのが、YouTubeを見てECで関連商品を購入する人が増加している点です。例えば、「ガーデニングの始め方」などの動画を見た人が楽天でガーデニンググッズを購入するなど、YouTubeと連動してEC売上に繋げている事例も出てきています。

これは、YouTubeが消費者の購買行動の入り口として作用していることを指します。

動画を視聴できるSNSには、YouTubeの他にもLINE・Instagramなどがありますが、筋トレやガーデニングといったテキストでは詳細を伝えにくい内容も、ある程度の尺を使える動画であれば分かりやすく伝えることと、Instagramでは1本の動画の尺が短く、伝えられる情報も限られてきますが、YouTubeの場合はいくつかの動画に分けても○○動画①・○○動画②と、順番に見てもらいやすいため、相性が良い結果となっています。

このように、在宅時間増加と自分磨きというニーズから、「○○の始め方」などのコンテンツが人気となり、「初めてのガーデニング/初めての筋トレ」といった動画がYouTubeで多く再生されました。筋トレの初歩段階でこうしたら怪我をするといったコンテンツは、すでにYouTubeで多く公開されていたため、在宅期間中にそれらの動画が多く再生される結果となりました。

また、YouTubeはライブ放送も可能で、フィットネスライバーによる放送でプロテインなどを売って成功している事例もあります。YouTubeはコンテンツに興味があって視聴する人が多いため、配信者も有名人やタレント性がある必要はなく、コンテンツが良ければ必要な人にしっかり視聴してもらえるという特徴があります。

YouTubeやSNSをビジネスで活用しようとすると、「バズるコンテンツを作る必要がある」と誤解してしまう方も多くいますが、物販を行うのであれば、「○○の始め方」や「失敗しない○○」など、きちんと情報を伝えるやり方の方が良いでしょう。

ECサイトにも変化が起きている

そもそもスマホ世代は文章を読まない人が増えているため、これからのECサイトのコンテンツは写真か動画が重要になります。これまでのECサイトは写真が重要で、同時に買いたくなるキャッチコピーを添えて、説明の文章もしっかり書き込むことが必要でした。しかし、今後は写真に加えて動画がコンバージョンする上で重要な要素になっています。

楽天を見ても、キャッチコピーと写真をセットで大きく掲載することは減って、写真と動画中心になっており、そういったサイトの売上が高くなっているのです。実際に、同じアイテムの構成で写真や動画を変えただけで売上が大幅に上がったという事例もたくさんあります。

ECサイトのコンテンツは動画を取り入れることが重要
ECサイトのコンテンツは動画を取り入れることが重要

また、巣ごもりで時間ができたことから、個人でもECショップを開く人が多くなっており、買い手が売り手へと変化する動きも見られています。メルカリなどで小遣い程度の稼ぎを得る方も増えており、多くて7~8万円の売上を上げています。他にも、ハンドメイドや農家の方が個人レベルでECショップを開いて販売するなど多様化。最近上場した、ネットショップを無料で開設できるBASEも利用者が増えるなど、ますます売り手が増える時代となりました。

一方で、ECショップによるポップアップストアも人気で、店舗があると商品を手に取って確認できるため売れやすくなっており、大小様々なECが多くのチャネルを通じて商品販売を行うようになっています。

2020年、特に変化のあった事例

コロナの影響で飲食店の経営が悪化したことで、飲食店に食材を卸している農家も危機的状況に陥っています。そんな中で、応援消費が人気となっています。彼らを応援したいというコミュニティが出来上がり、クラウドファンディングなどでも売れるなど、応援消費の輪が広がっています。

これは、お正月のおせちに関しても同じようなものがあり、昨今話題になっている食べチョクで農家から直接購入したり、メッセージでやりとりしながら人気のおせち料理を実家に送るなど需要が多様化しています。

売れているECサイトの特徴:気持ちを伝えるためのオプションに注力
売れているECサイトの特徴:気持ちを伝えるためのオプションに注力

ある花屋のA社様では、店舗の来客数が激減し、一時売上が落ち込んでしまいました。店舗を持つ花屋さんで売上が昨対に戻ることはなかなか難しい状況ですが、当社のクライアント企業であるA社様では、売上全体で昨対を超える伸びを見せています。

花は、母の日や誕生日など祝い事の際に「感謝を形で表したい」と思う商材で、コロナの影響で「直接会って気持ちを伝えることができない」という人からの需要が増えています。ネット上の花屋では今年の母の日も盛り上がりを見せるなど、贈り物需要が増え、花を買う人が増えているのです。

ただし、売れているECサイトとあまり売れていないECサイトの明暗はしっかり分かれる結果となりました。

売れているECサイトは、メッセージカードをつけるなど、花だけではなく気持ちを伝えるためのオプションを用意しています。今だからこそ両親に感謝を伝えるというコンセプトのページを作って売ることで、大変な時期に新しい需要とニーズの掘り起こしに成功した事例と言えるでしょう。

また、2020年の影響はECの買い物スピードにも変化を与えています。これまで当日翌日がECの配送スピードとして当たり前の感覚になってきましたが、商品によっては2~3週間待つことができるという事例も増えています。農家の応援消費も、多くの場合「明日には届かないが待っても良い」と思えるようになっているのです。しっかりとやりとりする相手が見えることで、注文してから2週間かけて届いても、クレームを受けるのではなく感謝されるのです。

変化した消費者ニーズにどう対応すべきなのか

巣ごもりの影響で、動画やSNSを見たり、ゲームをするなど「時間」が増えており、その「時間があるお客様」をどう獲得するかが重要課題となっています。商品の品質が最低限必要なのは当然ですが、どのようなコンテンツを用意するかも重要になっているのです。

楽天で以前から売れている店は、素晴らしい商品があるのは前提として、ページ内に充実したコンテンツが作られており、店長が覚えやすい共感できるサイトが今も上位に多く存在します。広告の競争が激しくなる中、店舗や店長の特徴がECの面白さとなっているのです。そういったコンテンツに投資して、イチかバチかでバズらせるのではなく、100人に1人が購入してもらえるような堅実なサイトを目指す方が良いのです。

EC業界は、この楽天のような10年くらい前のブームに回帰している傾向が伺えます。消費者も時間が増えたため、よりじっくりと検討できるコンテンツが重要になるでしょう。

人を全面に押し出す他にも、巣ごもり消費を味方につけるコンテンツは存在します。服やコスメ・インテリア・べッドなどは、商品の選び方や買い方がわからない人も多いため、選び方のコンテンツがあるお店になる必要があります。買う人の選び方までサポートする動画や、見るだけで商品の選び方をしっかり理解できるコンテンツを作っていくと良いでしょう。

例えば家具であれば、ソファの硬さや大きさ・高さなどの細かな情報を入れることで、売上が上がった家具屋の事例もあるため、「選び方」に特化したコンテンツを用意することが大切です。

まとめ

2020年、商品によって消費者の意識が大きく変化する結果となりました。配送は早ければ早いほど良かったものが、応援消費であれば待つことが苦ではなくなり、時間に追われていた少し前とは違った反応が目立つようになっています。

時間があることで、サイトのコンテンツや動画の充実がより重要となり、○○の選び方・始め方といったコンテンツが重宝されました。

これらのコンテンツで重要なのは、イチかバチかバズらせるための施策ではなく、共感や信頼が重要となります。取り扱う商材がこういったコンテンツとマッチするのであれば、早急に対応する必要があるでしょう。

望月智之
1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。
プライム市場の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも を共同創業。
自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費の専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

番組ナビゲーターを務めるニッポン放送「望月智之 イノベーターズ・クロス」のほか、J-WAVE、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなど、メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。著書に『2025年、人は「買い物」をしなくなる』、『買い物ゼロ秒時代の未来地図』がある。
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