公開日:2021年1月26日

小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは(連載第3回)

小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは(連載第3回)

「デジタルシェルフ総研」バイヤー対談企画。
DtoC攻略のヒントとなる小売業界の仕入れについて、某スーパーマーケットチェーンでバイヤー経験を持つF氏に、株式会社いつも.取締役副社長の望月が伺いました。本企画では、小売店舗とECの「違い」と「共通点」からDtoCを成功させるカギを見つけ、今後の小売店舗とECの役割・共存について考えます。

株式会社いつも. 取締役副社長 望月智之
東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。自らデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集しながら、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。

元スーパーマーケットバイヤー F氏
関西の大手グループ系列のスーパーマーケットにて34年間勤務。バイヤー歴25年(カウンセリング化粧品、セルフ品、家庭用品等)、e-コマース営業部(ネット通販、ネットスーパー)部長2年担当。現在はセミナー講師やカウンセラーとして活動。

前回の記事では、スーパーマーケットのバイヤーさんが認知の少ない商品をどのような考え方で探しており、どのように売場作りに活かしているのかについてお伺いしました。そこから見えてくるD2C企業が小売に進出するためのヒントは、ぜひ前回の記事を参考にしてください。

前回の記事はこちらから
今回は、小売が商品を仕入れる際の判断基準について、F氏にバイヤーの立場からお話を伺いました。

 

小売バイヤーへの売り込みについて

望月 スーパーの売場を構成するためには、コンセプト作りから新商品を含めた売場作りの流れがあるから、バイヤーさんへの売り込みって時期的には固まりますよね。

 

F氏 他のバイヤーさんがどうされているかわからないですが、問屋さんの状況とかもすごく絡んできます。

 

どうしてですか?

 

うちのスーパーでも、主要の取引先の問屋さんって3社くらいしか無いんです。

 

意外と少ないんですね。

 

店の効率を考えると、色んなところから商品が入ってくるのって手間ですよね。だから物流を数本にまとめるというのは効率的に非常に大事なんです。

あ、なるほど。アイテム数が多いから、それはそうですよね。

 

数本にまとめるがために、売上の利益をこちらが問屋さんに共有しないといけません。問屋さんからすると、どの商品も扱う作業量は一緒なので、だったら「より売れるもの」を当然優先的に扱うことになります。

たしかに。

 

だからバイヤーの気持ちだけで売りたいものというのはクエスチョンマークがどうしても付いてしまいます。そこはいかに共有できるか。コンセプト作りからそういう協力体制を取っていく必要があります。

 

なるほど、じゃあメーカー直で入るっていうのはあまり無いんですね。

 

少ないと思います。それでも多分、10店舗くらいのチェーン店さんなら可能性ありますね。店長裁量でいけることもあるかもしれません。ただ、支払いも含めて発注もシステム化されているので、そこに1つ入ってくるといろいろな見直しが必要になりますし、相手メーカーさんの情報の受け方も指定をしないといけません。

 

色々と複雑なんですね。

 

メーカーさんに費用がかかってしまったりもするんですよ。

 

そうなんですか?

 

システムを導入してもらわないと共有できなかったりするので。

 

あ、確かに。

 

基本的な日米の流通の違い

そのために日本では問屋という情報と商品を収集する機能があるんです。

業界全体でコストダウンに繋がるんですね。

 

そうです。特に日本はそうなっていますね。アメリカでは距離が長いので、大型のトレーラーなんかで一気に輸送して、倉庫に直接入れるのが普通なんですが、日本の場合は多品種少量販売なので、細かい商品を扱うと在庫過多になってしまいます。

 

アメリカは多品種少量で、バンバン商品が入るっていうことが前提に無いんですね。

 

まずパレット単位でしか物が動かないですね。

なるほど。ロットがある程度固まっていないといけないから。

 

ウォルマートさんやコストコさんなんかそうですけど、大容量な分コストは少ないんですよね。

 

確かに。

 

日本のスーパーのイメージで言うと、元々日本は商店街なんです。その商店街を縦に圧縮したのがスーパーのような感じです。

 

横に広がっていたものを一箇所に凝縮しているんですね。これは逆に言うと、どこかで売れている商品が見つかったとしても、問屋さんが取り扱っていない商品の場合もある訳ですね。

 

そういうこともありますが、ただ問屋さんも商売なのでその辺りはアンテナを貼っていますね。

そうなんですね。

 

もちろん。商品を流して儲かるものは、取り扱うのが商社としての問屋の仕事ですから。

 

じゃあ、問屋は売れそうだなと思ったものはちゃんと口座を作って流せる体制を作っているということですね。

 

そうです。

 

商品を仕入れる際の判断基準

ちなみによく言われる話ですが、AとBのどちらかの商品を仕入れる際の判断基準として、大手商品のような認知の高いもの以外の場合、やはり粗利のある方を企画するということはあるんでしょうか。

 

品揃えの決定なので、それが実務的なバイヤーの仕事ですね。おっしゃる通りどちらが利益になるかは非常に大きなファクターにはなるんですが、もう1つ、この商品を取り扱うことによって売場がどう変わるかが一番重要なんです。

1つの商品が売場に及ぼす影響はそんなに大きいんですか?

 

前回、新製品が1割変われば売場が変わると言ったのと同じでこの商品が入っていることでこの売場がどう変わるかということは重要です。それは、お客様がどういう反応をされるかということです。あと、これは人間関係的な話になりますが実はバイヤーって何もできないんです。商品を作っている訳でも商品を陳列している訳でもなく、売場で販売もしていないし、物を運んでいる訳でもない。

 

たしかに。

 

全部誰かにしてもらっている訳です。実はそういった実務的なことで、一番協力してくれるメーカーさんや人間関係で決まってくることが圧倒的に多いんです。

 

意外とそうなんですね。

 

例えば、売場を作ってどの商品をどこに置くかということは、昔は全て手書きでやっていたんです。

 

大変そうですね。

 

はい。だから、それを自分のところの商品が入っていないにも関わらず一生懸命手伝ってくれたところって、やっぱり人間なので決め手になることがあるんです。

 

人間同士のお付き合いですもんね。

 

私がいたのが大阪の会社なので、特にそうなのかもしれないんですけど。僕の考えているバイヤーの評価って、自分の担当してくれていたメーカーさんや問屋さんの営業の方が、どれだけその会社で出世されるかが大事だと思っているんです。

 

なるほど。

私のところに来たから出世が出来たという方が絶対にいいんです。だから頑張ってくれたところには私もそれは応援しないといけません。当然それがビジネスでも影響があります。例えば、その担当者さんの商品がものすごく世間的にも売れた商品になった時に、仮に100ケースしか在庫がなかったとします。日本中からオーダーが来たという際にも、当然一番売れている取引先に売れるから送りますよね。それでも人付き合いで一個だけでも残してうちにもらえるかどうかなんです。

その一個が大きな影響に繋がるんですね。

 

それが売場で表現されます。他の店にはないのにどうしてこのスーパーにはあるの? というお客様の評価に繋がるんです。

 

なるほど、前回お話頂いたバイヤーとしての重要なお仕事と同じ効果に繋がっているんですね。

 

そうです。他にも、ある時期に鼻の毛穴をきれいにする商品が爆発的に売れた時期がありました。

 

記憶に新しいですね。今もよく見かける商品ですよね。

 

それが一気に需要が膨らんだことで、日本中から在庫が無くなってしまった事があったんです。その時、私は関東の店舗でバイヤーをしていたんですけど、その時期、担当していた6店舗は、常にその商品を山積みにしていました。

 

へぇ。すごいですね。それは先程のお付き合いのお話とはまた違うんですか。

 

はい。それは特別に回してもらった訳じゃなくて、生産体制のラインとか一日の生産量とか、需要がどう起こっているのかを考えると、一日に大体の売上数量が分かってきます。当時は新製品だったのですが、私は他があまり仕入れていないときに一気に買い込んだんです。

バイヤーとしての経験の勝利ですね。

 

そんなことの情報まで含めて売場で表現するんです。このように、あらゆる手を尽くしてバイヤーは売場を作っているんです。

 

需要の予測も、取引先の担当者さんの出世も、全てがお客様に繋がっているんですね。

今回のまとめ

今回の対談で、問屋さんとの関係や最後の信頼関係は人間同士のお付き合いというお話を聞くことができました。
問屋さんは、同じ作業量なら当然売れるものを扱いたいと思っているようですが、スーパーなどの店舗としては、差別化に繋がる商品を優先したい場合もあるため、売り場のコンセプトを問屋さんとも共有して、協力体制を取っているというお話が印象的でした。
問屋さんも売れているものに関してはアンテナを貼っているので、D2C企業としてもこういったバイヤーさんや問屋さんのアンテナにいかにアプローチできるかが重要になっていきそうです。少なくともバイヤーさんは、売り場を変えてくれるような商品を求めているため、信頼関係をしっかり構築しながら、企画も含めてエンドユーザーの満足に繋がるような商品を提供することが必要になりそうです。

今回の記事はここまでです。
次回はバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方について、F氏にバイヤー目線でのお話を伺いました。

(連載第1回)
小売のバイヤーに刺さる商品売込み時のポイントは、『店舗のコンセプト』
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21009/

(連載第2回)
小売のバイヤーは、認知の少ない商品を売りたがっている!?
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21022/

(連載第3回)
小売のバイヤーが商品を仕入れる際の判断基準とは
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21033/

(連載第4回)
小売のバイヤーが求める「これから」売れる商品の探し方とは
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21037/

(連載第5回)
小売のバイヤーが考えるPBとNBのバランスの取り方
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21050/

(連載第6回)
バイヤー視点から考えるD2C成功のポイント
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21062/

(連載第7回)
これからの時代に求められるD2C商品とその情報発信
https://itsumo365.co.jp/blog/post-21073/

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