サブスクリプションのタイプ分類で見えてきた特徴と日本の具体的な類型
当サイトで公開している「[速報]2021年度の国内EC市場規模予測(デジタルシェルフ総研予測)」でも述べているように、2021年の国内EC市場規模は前年比で10%弱の増加が見込まれます。
また、国内EC市場は成長の余力を残しており、引き続き市場規模は拡大するとの見方が大勢を占めています。EC市場規模の拡大にはEC利用者(利用頻度の高低はあれどもECを利用する人)の増加は不可欠ですが、ECが普及し始めて20年以上が経過し、国内の総人口も減少に転じているなかで、EC利用者の絶対数は爆発的に増える状況ではなくなりました。
そのような状況下でもまだEC市場規模が拡大すると予想されるのは、個々人のECの利用頻度に上昇の余地があるからです。そして、利用頻度の上昇につながるものの一つとして、サブスクリプションが挙げられます。近年サブスクリプションの利用が高まっており、その種類も多様化しています。そこで今回は、現在提供されているサブスクリプションにはどのようなものがあるのかを整理し、その特徴について考察を試みたいと思います。
サブスクリプションの具体的な類型
サブスクリプションの類型については、Googleが分かりやすく9つの類型を発表しています。
具体的には
- 定期購買型
- キュレーション型
- メンテナンス型
- 長期リース型
- 短期レンタル型
- プロモーション型
- インストアサービス型
- オンラインサービス型
- デジタルコンテンツ型
以上の9類型です。
このなかで、6. プロモーション型は他と比較し若干性質が異なるので、6.を外した8類型について、次の通り説明を試みてみました。尚、類型名はGoogleによるものをそのまま用い、その説明はデジタルシェルフ総研によるものとします。
以上が8類型の説明になります。しかし、単に羅列するだけでは特徴が見えてきませんので、以降で整理を加えていきます。
ビジネスモデルの観点からの深堀
8類型について、次の図に表すようにヨコ軸は「物販系」「サービス系」「デジタルコンテンツ系」という「財」の種別の観点で分類し、タテ軸はビジネスモデルの変化の観点での分類として二軸で整理してみました。
このように整理すると、それぞれ消費者からみたメリット浮かび上がってきます。
タテ軸の「消費(利用)の定期化」のゾーンに位置する1. 定期購買型、6. インストアサービス型、8. デジタルコンテンツ型は、スポットでの消費(利用)からのサブスクリプションへの転換です。消費者にとってのメリットですが、1.については“手間の煩わしさからの解消”が挙げられますが、同時に例えば日用品をサブスクリプションすることで、買い忘れを未然に防止できる効果も期待できます。
6.および7.については“定額であることによるお得感”があるでしょう。加えて価格が定額であることから、値段をいちいち気にせず思い切り利用できるという点も考えられます。
続いて「サービスとの融合」のゾーンに位置する2. キュレーション型ですが、単なる定期購買ではなく、専門家によるセレクトといった付加価値が見た目上無償(実質的にはそのコストは販売による利益から捻出されている)で付与されており、物販とサービスが融合した新たなスタイルと捉えることができます。3. メンテナンス型も同様です。ビールで例えるならばビールサーバーという什器は無償で貸与され(実質的にはその貸与コストは販売による利益から捻出されている)、缶ビールとは一味違ったビールの味わいを楽しむことができる従来にはなかったサービスです。
ビールサーバーの貸与によってビールという商材の付加価値が上昇するサブスクリプションであり、これも物販とサービスが融合した新たなスタイルです。次に「所有から利用への転換」のゾーンですが、これはいわゆるシェアリングエコノミーにおけるモノのシェアリングに相当するサービスであります。購入という経済的負担がなく、使いたいものを使いたいときに使うことができるのは、消費者にとって利便性が高いでしょう。まさに消費スタイルのパラダイムシフトです。
最後に最下段に位置する7. オンラインサービス型ですが、ファイル共有や財務会計といったクラウド型のサービス、あるいはオンラインスタイルの英会話レッスンは従来から提供されているサービスであり、それ自体は大きなビジネスモデルの変革とまでは言えません。しかしながら、例えばリアルで行っていた英会話レッスンをインターネット上で提供するようになったと考えれば、消費者にとっては利便性の向上と言えますので、これもひとつのビジネスモデルの変革といってもよいのではないでしょうか。
事業者側のメリットおよび留意点
以上のようにサブスクリプションを二軸で整理してみたところ、従来のビジネスモデルからの変化を伴っていることがわかります。ところで、上の項では消費者のメリットを軸にそれぞれの類型について言及しましたが、提供する事業者側のメリットは何でしょうか?類型を問わず全般的に共通するのは、自社商材・サービスへ消費者を誘った上で、ロックインを期待できる点が挙げられるでしょう。さらに、例えばミールキットの定期宅配の場合、消費者に届ける商材を事業者側が選定するため、食材のロスを未然に防止できる効果を期待できます。
また、4. 長期リース型や5. 短期レンタル型といったサブスクリプションは、製品の有効活用という点では環境に配慮したサービスであるということができます。そう考えれば、サブスクリプションはSDGsの要素を含んでいる時代に合ったビジネスと捉えることができるでしょう。
さて、メリットについて触れてきましたが、一方で事業者が予め念頭に置いておくべきサブスクリプションの留意点についても触れておきます。独立行政法人国民生活センターは2021年10月7日付で「「解約したはず!」「契約してない!」と思い込んでいませんか? 予期せぬ“サブスク”の請求トラブルに注意!」と題した注意喚起を発表しています。この中で、消費者からの相談事例に基づく特徴と問題点として次の点が列挙されています。
- サブスクがどのような契約かを正しく理解していない
- 契約内容や契約先の事業者を誤って認識している
- 無料期間中に解約手続きを忘れていた/解約方法が分からず無料期間中に解約手続ができなかった
- 解約したつもりが、解約できていなかった
- 期待したサービス内容ではなかった
消費者側から見たこれらの問題点は非常に重要な指摘です。このような指摘がなされていることから、実際にはサブスクリプションに関するとても多くのトラブルが発生しているであろうと推測されます。サブスクリプションを提供する事業者は、十分な配慮と事前の対策、および万一トラブルが発生した際の真摯な対応が必要と思われます。
まとめ
最後にまとめを記します。
・Googleが9つのサブスクリプションの類型を発表しています。1.定期購買型、2. キュレーション型、3. メンテナンス型、4. 長期リース型、5. 短期レンタル型、6. プロモーション型、7. インストアサービス型、8. オンラインサービス型、9. デジタルコンテンツ型、以上の9類型です。
・このなかで、 プロモーション型を除く8類型について、ヨコ軸を「物販系」「サービス系」「デジタルコンテンツ系」という「財」の種別の観点で分類し、タテ軸はビジネスモデルの変化の観点での分類として二軸で整理してみたところ、それぞれの類型毎に消費者にとってのメリットが何であるかが分かりました。
・一方で提供する事業者側のメリットとして、自社商材・サービスへ消費者を誘った上で、ロックインを期待できる点が挙げられるでしょう。さらにサブスクリプションは例えば食品ロスの解消などSDGsの要素を含んでいる点も特徴的です。
・事業者が予め念頭に置いておくべきサブスクリプションの留意点として、(消費者が)サブスクがどのような契約かを正しく理解していない、契約内容や契約先の事業者を誤って認識している、解約したつもりが、解約できていなかった、等の点が挙げられており、事業者は十分な配慮が必要でしょう。