[速報]2021年度の国内EC市場規模予測(デジタルシェルフ総研予測)
2021年も残り少なくなってきました。本年も昨年に引き続いて緊急事態宣言が長期にわたり発令され、人々の行動も制限された部分も多かった年であったと思われます。そのような状況下、2021年のEC市場規模を予測する上で関連するデータ(政府発表資料、および上場企業の決算発表資料)が徐々に公開されてきており、国内のEC市場規模の輪郭がおぼろげながら見えてきた感があります。そこで、それらのデータを用いどこよりも早く2021年のEC市場規模の予想を行ってみます。
EC市場規模が大きく伸びた2020年
2021年の国内EC市場規模を予測するにあたり、2020年を振り返ってみましょう。経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2020年の物販系EC市場規模は12 兆2,333 億円と前年比で21.71%の増加、またEC化率は8.08%と1.32ポイント上昇し、大幅に市場規模が拡大しました。2019年までの対前年からの伸長率は、毎年数パーセント後半で推移していましたので、21.71%という伸長率は目を見張るものがあります。飲食料品、家電、アパレルなど軒並みすべての物販系ECのカテゴリーにおいて大きく市場規模が伸びており、ステイホームによって人々がネットショッピングを盛んに行ったことが数字に現れています。
しかしこれはあくまでもECの数値の話です。ECを含む小売市場全体ですが、総務省統計局家計調査によると、2020年の1家計あたりの物品の購入額は153.7万円と対前年比でわずか6千円の増加とほぼ横ばいです。カテゴリー別では、飲食料品は4.5%、家電は11.2%、化粧品・医薬品は3.9%とそれぞれ増加している一方、アパレルはマイナス18.1%と大きく下落しています。小売市場全体では横ばいでも、カテゴリーごとにバラツキがあることが分かります。尚、ECにおいてもリアルにおいても、旅行、外食、エンタメなどのサービス業は大幅な打撃を受けており、EC、リアル共に市場規模は大きく減少している点には留意が必要でしょう。大雑把にまとめますと、2020年の外出自粛下における個人消費は、次のようであったと言えます。
- 国民の物品購入に関する消費金額全体に大きな変動はなかった(サービス分野の消費は相当控えられた)。
- 物品購入において、家ナカ時間が増えることでお金の使い先が変わった。
- ECでの買い物が大きく増えた。
2021年の小売市場規模の状況はほぼ前年と変わらず
では2021年ですが、先に小売市場全体を俯瞰しましょう。本記事執筆時点(2021年11月)で公開されている総務省統計局家計調査は1月~6月までの分ですので、2021年の上半期の数値を過去の経年推移とともに次の図表にまとめてみました。
2020年の反動があるものの引き続き力強い国内EC市場規模
続いて、本記事の主題である2021年のEC市場規模を予想したいと思います。まだ2021年は終了しておらず、参考とするデータもある程度限られていますので、あくまでも現時点でのラフな予想という位置づけでご参照ください。予想に用いたデータは、政府統計である「総務省統計局家計消費状況におけるインターネットを利用した支出総額」(8月分まで)、大手物流事業者3社が公表する宅配便実績データ(執筆時点で公開されている直近月分まで)、および民間上場企業の四半期決算発表資料(執筆時点で公開されている直近期について約40社程度)です。また、デジタルシェルフ総研の運営母体である株式会社いつもの事業現場のコンサルタントによるマーケット考察も加味しました。結論を言えば、2020年比で10%弱の伸長率ではないかと予想します。
次に物流面からの予想ですが、大手物流事業者であるヤマトホールディングス、佐川ホールディングス、日本郵便がそれぞれホームページで公開している宅配便実績に基づきますと、ECではない宅配便の比率を推定の上、その数値を除けば約5%の個数増加と推定します。ここに、大手プラットフォーム事業者やネットスーパーの自社物流分、店舗ピックアップ分、大手3社以外の宅配便個数等の伸びが加わることで、概ね7~8%程度の増加と予想します。続いて民間上場企業の四半期決算発表資料ですが、各社一律的にECの売上が増加というわけではなく凸凹です。ピックアップした資料に一通り目を通しますと、平均すれば凡そ10%程度の増加ではないかと思われます。
最後に株式会社いつものコンサルタントによる考察ですが、2021年は例えば前年比20%増と勢いが強い企業もあれば、横ばいの企業もあるといったように伸びに全体的にバラツキがあるものの、全体としては10%超ではないかとの予想。
以上を総合的に踏まえ、本記事ではやや弱めの予想として10%弱の増加と考えました。この予想が正しければ、2020年が12 兆2,333 億円ですので、金額ベースで換算すると2021年は13兆2,000億円~13兆4,000億円という着地になります。個別のカテゴリーでは飲食料品、化粧品分野の伸長率が高いように思われます。また、家電分野も引き続き好調を維持している印象受けます。10%弱という数値を聞くと昨年比で伸長率が大きく落ちた印象を受けるかもしれません。ただ、継続的に市場拡大が逓増傾向にあったコロナ前の水準に戻っただけであり、2020年の家ナカ消費でのEC利用の急拡大を踏まえれば、依然として市場は力強さを保っていると考えることが正しいでしょう。
定性面から捉えた2021年のEC市場
民間上場企業の四半期決算発表資料には、各社のECの取り組み状況や今後の戦略について掲載されているものがあり、それらを通じて2021年のEC市場を定性的な側面からとらえる(あるいは関連する情報から類推する)ことができます。カテゴリー毎の動向は別の機会に触れたいと思いますが、同資料から見えることは、概して言えば2021年は前年の大幅な売上拡大からの反動がやや来ている点が挙げられます。そのような状況下で、各社の経営努力によってECの売上が形成されていることが良く理解できます。特に実店舗ビジネスを主体に経営を推進してきている企業は、例えばオンライン接客などDXへのシフトが鮮明で、ECでのニーズの取り込みに加え、ECに限らずデジタル化によって対面サービスを強化する動きもみられます。このように、EC市場規模拡大の裏には、各社の総合的なデジタル化の動きがあることを理解しておく必要があるでしょう。
2021年に報じられたEC業界におけるニュースを振り返ると、例えば楽天と日本郵便の提携に代表されるように大手ECプラットフォーム事業者による物流競争をはじめとする積極的な事業展開がみられました。またマーケティング、物流、決済では様々な企業からEC事業を支援に資するこれまでにはない新たなソリューションが次々にリリースされている様子が理解できます。ECでのヒット商品については、楽天市場が同サイト上で発表している2021年上半期ランキングのトップ10中6商品を飲食料品が占めるなど、自宅時間を有意義に過ごす商品がECで積極的に購入されている様子がうかがえます。このような動向から、EC業界は引き続きダイナミズムに溢れているアグレッシブな業界である印象を持ちます。株式市場に目を向けると、物流代行企業、EC決済代行企業、EC物流企業、マーケティング企業等の新規株式上場がみられ、株式市場の観点からもEC市場には熱い目線が注がれていることがわかります。以上のように、定量、定性両面からEC市場は力強さを保ったままであると言えるでしょう。
まとめ
最後に、簡単ですが本記事のまとめを次に記します。ご参照いただければ幸いです。
・物品購入が決してコロナ禍で控えられていたわけではなく、小売全体の数値としては例年と大きく変わりません(カテゴリー毎には変化あり)。
・サービス分野は2020年の落ち込みから回復基調です。サービス分野のEC市場規模も回復すると予想されます。
・EC市場規模は、現時点でのラフな予想値ではあるものの2020年比で10%弱の増加が見込まれます。13兆2,000億円~13兆4,000億円という着地になります。
・2020年の大幅な売上拡大からの反動がやや来ている点が見受けられますが、それでも依然として市場は力強さを保っていると考えることが正しい見方でしょう。
以上2021年の国内EC市場規模をどこよりも最速で予想してみました。繰り返しますが、限られた情報を基にしたラフな予想です。今後追加的に情報が入手出来次第、本記事の続報としてお知らせさせていただくことを想定しております。