経産省EC市場調査の最新結果を掘り下げる
経済産業省より電子商取引に関する市場調査の最新版がリリースされました。その内容は多くのメディアで取り上げられていますので、既にご存じの方も多いでしょう。本記事では発表内容を消費行動の目線で掘り下げ、同調査レポートには記載されていない考察をお届けしたいと思います。
※<留意点>本記事では経済産業省の電子商取引に関する市場調査において「物販系分野のBtoC-EC市場規模」を対象としている点、予めご承知おきください。
EC市場の全体観
まずは市場の全体観を見てみましょう。2023年のBtoC-EC市場規模は14兆6,760億円、EC化率は9.38%と推計されています。国内のスーパーマーケットの市場規模は約15兆円です(経済産業省商業動態統計調査による)。BtoC-EC市場規模はほぼスーパーマーケットの市場規模に匹敵する巨大な規模を形成しており、近い将来その規模を追い抜くと想定されます。
2013年から2023年までの10年間での伸び率を計算したところ、2.45倍となりました。グラフの通り右肩上がりで市場規模が拡大していることがわかります。ところが前年比を見てみると、2021年は8.61%、2022年は5.37%、2023年は4.83%と徐々に下落しています。EC市場規模はまだ伸び代があると思われますが、徐々に市場が成熟化しているとも考えられます。
カテゴリー毎の伸び
続いてカテゴリー毎の伸びです。2018年から2023年までの5年間の伸びを次の6つのカテゴリー毎に算出したところ、最も高いのは「食品、飲料、酒類」で1.73倍となりました。反対に最も低いのは「衣類、服飾雑貨等」の1.51倍です。しかしその差は大きいわけではありません、ほぼ一様に市場規模が拡大しています。
細部を見てみると、2020年には「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」「生活雑貨、家具、インテリア」の伸びが高いことがわかります。コロナ禍において自宅で快適に過ごしたいと思う消費者心理が市場規模の伸びに表れています。また食品についてはコロナ禍のみならずコロナ後も伸び続けていますが、これは物価高が原因でしょう。消費者は物価上昇に悩みながら食品をECで購入している様子が想像できます。
※経済産業省の報告書には未掲載のオリジナル図表
年代毎に大きく異なるEC化率
経済産業省発表のEC化率は9.38%です。同省のEC化率はあくまでも全体値、すなわち全年代の平均値ですが、この全体値をもとに年代別に細分化されたEC化率を紹介します。「20代」「30代」は20%以上と全体を大きく上回っています。一方で「40代」は全体値を少し上回る程度です。やはり若い世代の消費者は積極的にECを活用しているということが、このデータからわかります。
ところで「50代以降」は4.13%と急落しています。「40代」が12.45%ということがありますので、恐らく「50代」はそれほど低くないと想定されます。仮説として「60代以降」のEC化率が低いために「50代以降」のEC化率が低くなっているものと推測されます。加えて言うと、総務省の人口推計によると2024年1月1日時点の「50代以降」の人口は約6,200万と総人口の半分以上を占めています。そのことから、結果的に「50代以降」のEC化率が薄まっていると考えられます。
※経済産業省の報告書には未掲載のオリジナル図表
大都市圏在住の消費者はECに積極的
都道府県別の消費者毎のEC利用動向について見てみましょう。次のグラフはタテ軸を都道府県別人口(万人)、ヨコ軸を都道府県別EC化率とした散布図です。赤枠内が込み合っていますので、拡大した散布図を併記しておきます。
散布図にあるように、人口、EC化率共に高いのは東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉と言った大都市です。反対に赤枠内にあるように人口200万人以内、かつEC化率6%~9%に多くの県がひしめいています。散布図を見る限り、人口が多い都道府県はEC化率が高く、逆に人口が少ない県はEC化率が低いことがわかります。以上のことから、EC化率と人口には相関関係があるように思えます。
EC化率と人口の相関について、仮説を立ててみましょう。1点目は収入の多さです。厚生労働省賃金構造基本統計調査によれば、令和5年の東京都の一般労働者の給与額は36.85万円ですが、北海道の場合28.85万円と大きな開きがあります。総じて大都市圏在住の消費者の方が地方都市在住の消費者よりも収入が多く、その分ECでの消費に充当されていると思われます。
2点目は小売店舗による消費の刺激です。人口が多い分、大都市圏は地方都市よりも小売店舗が充実しています。通勤経路上や普段の生活圏内に小売店舗が充実していますので、その小売店舗から視覚的に消費が刺激され、ECでの購入にもつながっている可能性が想定されます。
※経済産業省の報告書には未掲載のオリジナル図表
年々高まるECモール比率
最後は消費者によるECモールの利用傾向です。次のグラフはECモールとECモール以外、すなわち自社ECの比率の推移に関するグラフです。ここで言う比率とは金額ベースであり、ECモールの場合は流通総額、自社ECは売上高になります。なおここで言うECモールとはAmazon、楽天、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWN、auPAYマーケット、Qoo10の6モールです。
2020年のECモール比率は65.9%でしたが、その後年々その比率は上昇し、2023年には78.6%となっています。つまり、消費者は年々ECモールの方を好んで利用しているということです。ECモールは商品ラインナップの厚みが集客力の源泉になっており、加えて物流面でのメリットや独自の経済圏による優位性も、より集客性を高める要因になっています。これから先どこまでECモールの比率が高まるのか、また自社ECがどこまで盛り返すのか注目しておきたいところです。
※経済産業省の報告書には未掲載のオリジナル図表