後払い決済サービス「BNPL」の動向について
ECで商品を購入する際、多彩な決済手段が提供されていると、消費者は便利に感じることでしょう。EC事業者はクレジットカードのみならず、電子マネー、コンビニ決済、ネットバンキング等幅広い決済手段を提供しており、消費者はその中から自分の好みの決済手段を選択しています。
その中で、近年EC業界では後払い決済サービスであるBNPL (Buy Now, Pay Later)の利用度が高まっていると言われています。BNPLとは、購入時に代金を支払うのではなく、後日一括または分割で代金を支払うことができるサービスです。そこで今回はこのBNPLをテーマに実際の利用金額(市場規模)や利用率などについて考察を試みたいと思います。
ECにおける決済手段の利用率
はじめにECにおける決済手段の利用率を俯瞰しておきましょう。総務省の調査によれば、2023年時点で最も利用されているのはクレジットカードの76.7%であり、次いで電子マネー38.5%、コンビニ決済34.7%、銀行ATM23.0%、ネットバンキング21.9%、代金引換17.8%となっています。1位のクレジットカードと2位の電子マネーには約2倍の差があり、ECではクレジットカードの利用が一般的であることがよく理解できます。
そのクレジットカードですが、2013年からの10年間の推移を見てみると、10年連続で最も利用されている決済手段となっています。一方で電子マネーは2013年時点ではわずか4.1%に過ぎませんでしたが、2023年には38.5%と大幅に増加しています。反対に代金引換は2013年時点で40.9%とクレジットカードに次ぐ第2位の決済手段でしたが、2023年には17.8%と最下位に転じています。このように長期トレンドを見てみると決済手段の好みが変化していることがわかります。
急速に拡大する国内のBNPL市場規模
ところで、先の総務省の調査結果の選択肢には登場していませんが、ECでは後払い決済サービスであるBNPL (Buy Now, Pay Later)への関心が高まっていることが、メディア等により報じられています。次のグラフはBNPLの市場規模、後払い決済サービスが利用された金額に関する経年推移です。2017年は4,400億円でしたが2023年は1兆4,282億円と6年間で3倍以上に急拡大しています。
尚、この数値はECにおけるBNPLの利用額です。ECが対象ですが物販系BtoC-ECに限らず、サービス系やデジタル系のBtoC-ECにも利用されているものと推測されます。物販系、サービス系、デジタル系を全て合算したBtoC-ECの市場規模は24兆8,435億円です(出所:経済産業省電子商取引に関する市場調査より)。
計算すると金額ベースで全体の5.7%がBNPLを使用したことになります。まだ比率は低いですが、これまでの伸びを見る限りポテンシャルは高く、今後さらなる利用拡大が想定されます。
年代間で大きな差がないBNPLの利用率
続いて、BNPLの年代別の利用率について見てみましょう。BNPLは後払い決済ですので、お金がない若者層の利用率が高いのではと思うかもしれません。しかし次のグラフの通り、10代18%、20代16%に対し、30代14%、40代14%、50代12%、60代13%となっています。確かに10代、20代の利用率はその他の年代よりも高いですが、その差は大きくありません。このことから、BNPLの利用率には年代間で大きな違いはなく、全ての年代にニーズがあると考えられます。
拡大ペースが速い世界のBNPL市場規模
世界のBNPL市場規模についても確認しておきましょう。2023年の世界のBNPL市場規模は3,494億USドル、日本円で52兆4,100億円(150円/USドルで計算)と推計されています。2019年が340億USドル、5兆1,000億円ですので、わずか4年間で約10倍に拡大した計算になります。
日本のBNPL市場規模の拡大ベースと比較すると、世界の方がその拡大ペースが速いことがわかります。BNPLの利用は世界レベルのトレンドとなっていますので、このことからも日本での利用はさらに広がるのではないかと考えられます。
BNPLのリスクとは?
BNPLはクレジットカードと異なり、利用にあたっての与信審査が不要、又は簡易な審査となっています。利用開始のハードルが低いため、EC市場の拡大に伴いさらに利用度が高まることと思われます。またBNPLはクレジットカードよりも利用限度額が比較的低く抑えられている点も特徴的です(サービス事業者によって設定額が異なります)。
BNPLのリスクですが、利用のハードルが低いがゆえに、消費者の中には気軽にECで購入してしまい支払いが不可能となってしまうケースが考えられます。したがって、ECで商品販売やサービスを提供する事業者は、BNPLサービスの決済事業者を選定する際、万一の時でも代金未回収分を保証する等、リスク回避の仕組みが整っているかどうか、確かめることが重要となるでしょう。