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宙に浮く1.7兆円のインバウンド買い物需要

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宙に浮く1.7兆円のインバウンド買い物需要

2022年が明けました。早く感染症の拡大が終息して欲しいところですが、世界の状況から予想するに、まだ時間を要するように思われます。必然的に、今年も多くの外国人が訪日することは難しく、街中が買い物袋を抱えた外国人で賑わう光景を見かけることは当分先になるでしょう。

俄然、越境ECへの期待が高まります。少し前のデータになりますが、2017年12月に日本貿易振興機構(JETRO)が公開した「中国の消費者の日本製品等意識調査」(https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2017/9c767c469d4a6467/1-0.pdf)によれば、中国人消費者が越境ECで日本製品を購入する理由として「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」と回答した率が40.4%となっています(2017年8月回答分 n=992)。外国人による訪日が困難な状況下、この回答率は越境ECがインバウンド(買い物)需要の受け皿になることができる可能性を示唆しています。そこで、今回のコラムでは越境EC事業を推進する方々の参考となるよう、訪日外国人観光客数がピークであった2019年における、訪日外国人による買い物に関する消費傾向を振り返ってみたいと思います。

 

買い物総額全体の6割を占める訪日中国人

まず、訪日外国人全体の買い物の総額ですが、観光庁発表の訪日外国人消費動向調査(https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001338023.pdf)によりますと、1兆6,690億円となっています。2019年の家計最終消費支出、すなわち全ての日本人による個人消費が280兆円です。この280兆円の中には物品購入以外にも、旅行、外食、理美容、教育などサービス分野の消費も含まれています。その点を踏まえれば、訪日時における買い物(サービス分野の消費を含まず)であるにもかかわらず1兆6,690億円分も消費しており、この数字がいかに大きいかが分かります。

続いて次のグラフは、観光庁による同調査における2019年の国別での買い物の総額に関するデータです。年間での全体総額1兆6,690億円のうち、中国が全体総額の約6割に相当する9,365億円を購入しています。続いて台湾(1,966億円)、香港(1,186億円)と上位3か国・地域を中華圏が占める結果となっています。中国の額が突出しており、購買力の大きさを定量的に物語っています。

出所:訪日外国人消費動向調査(観光庁)

https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001338023.pdf)を加工し作成

 

中国人とそれ以外の訪日外国人で異なる商品カテゴリー別の金額規模

 

次に商品カテゴリー別に金額規模を見てみましょう。以下の2つのグラフは、商品カテゴリー毎の買い物の総額に関するグラフです。上で述べたように、全体総額に占める中国人の比率が高いため、ここでは中国人と中国人を除く外国人を分けて算出してみました。尚、商品カテゴリー別での金額の計算は、次の計算式で算出しました。

【計算式】

(A)訪日外国人1人あたり買い物額 × (B)訪日外国人数 = 買い物の総額

【出所】

(A)訪日外国人消費動向調査(観光庁)

(B)訪日外客統計(独立行政法人国際観光振興機構:通称JNTO)

訪日中国人による買い物の総額は9,365億円ですが、化粧品・香水がその4割強に相当する4,097億円となっています。次いで靴・かばん・革製品が1,194億円、医薬品が1,061億円、衣類が1,053億円です。2位~4位を合算しても、1位の化粧品・香水を超えていません。訪日中国人にとって、日本の化粧品・香水の人気が高いことがよくわかります。

 

出所:訪日外国人消費動向調査(観光庁)(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

および訪日外客統計(独立行政法人国際観光振興機構:JNTO)(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/index.html)を用いて作成

 

続いて、中国人を除く訪日外国人の買い物の総額を見てみましょう。商品別に見ると、訪日中国人による買い物とは全く様相が異なっています。トップが衣類で1,234億円、以降は菓子類が1,112億円、靴・かばん・革製品が693億円、その他食料品・飲料・たばこが640億円となっています。

以上のように、訪日中国人とは異なる傾向にありますが、それぞれ上位6つの商品カテゴリーを見てみると、化粧品・香水、靴・かばん・革製品、医薬品、衣類、菓子類の5つのカテゴリーが共通しており、大枠では類似しているようにも見て取れます。

出所:訪日外国人消費動向調査(観光庁)(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

および訪日外客統計(独立行政法人国際観光振興機構:JNTO)(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/index.html)を用いて作成

 

アジア諸国・地域とそれ以外の国では満足した商品が全く異なる結果に

ところで、訪日外国人消費動向調査(観光庁)には、一番満足した購入商品に関するアンケート結果も掲載されており、とても興味深い内容となっています。

次の表はその結果について、国・地域をヨコ軸、商品カテゴリーをタテ軸に整理したものです。

赤字で記している数字がその商品カテゴリーを一番満足したと回答した比率です。アジア諸国に関しては、香港と中国以外はすべて菓子類がトップです。中国は買い物の総額と同じく一番満足した購入商品も化粧品がトップですが、菓子類も16.3%と健闘しています。香港もトップは衣類で20.2%ですが、菓子類も19.4%と肉薄しています。

一方でアジア以外の諸国ですが、アジア諸国・地域とは対照的に、菓子類がトップの国はひとつもありません。代わって多くの国でその他買い物代がトップとなっています。その他買い物代については、詳細が分かりませんのではっきりしたことは言えませんが、以下に挙げている商品カテゴリー以外に魅力的な日本商品が散在していると考えられます。このように、買い物の金額ベースだけではわからない外国人のニーズを読み解くことができます。

 

出所:訪日外国人消費動向調査(観光庁)(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html)を用いて作成

 

越境ECへの期待

以上のように、2019年の訪日外国人による買い物に関する消費を定量的な視点で整理してみました。

訪日外国人は年々増加の一途を辿ってきておりました。独立行政法人国際観光振興機構(JNTO)によれば、2019年のその数値は3,188万人にも及んでいました。感染症が世界中に蔓延しなければ、2020年以降も同規模、あるいはそれ以上の数の訪日外国人を見込むことができていたと予想されるため、この需要をあて込んでいた事業者の方々の落胆は計り知れないものがあります。

現実として2020年に入って以降、訪日外国人が激減していますので、事実上この1兆6,690億円、あるいはそれ以上の買い物需要が宙に浮いていることになります。先述の通り、越境ECはインバウンド(買い物)需要の受け皿になることができる可能性を秘めています。1兆6,690億円全ての受け皿になることは現実的に難しいとしても、越境ECを仕掛ける際の重要な示唆が、上述の整理には含まれていると思われます。

 

まとめ

最後にまとめを記します。

  • 2019年の訪日外国人全体の買い物の総計は1兆6,690億円でした。このうち、中国が全体総額の約6割に相当する9,365億円を購入しています。続いて台湾(1,966億円)、香港(1,186億円)と上位3か国・地域を中華圏が占める結果となっています。
  • 訪日中国人による買い物の総額のうち、化粧品・香水が全体の4割強に相当する4,097億円を占めます。訪日中国人にとって、日本の化粧品・香水の人気が高いことがよくわかります。
  • 一方で、中国人を除く訪日外国人の買い物の総額を商品別に見ると、訪日中国人による買い物とは全く様相が異なっています。トップが衣類で1,234億円、以降菓子類が1,112億円、靴・かばん・革製品が693億円、その他食料品・飲料・たばこが640億円となっています。
  • 訪日中国人、中国人以外の訪日外国人とは異なる傾向にありますが、それぞれ上位6つの商品カテゴリーを見てみると、化粧品・香水、靴・かばん・革製品、医薬品、衣類、菓子類の5つのカテゴリーが共通しており、大枠では類似しているようにも見て取れます。
  • 一番満足した購入商品に関するアンケート結果について、アジア諸国・地域では菓子類の人気がとても高いことが分かりました。一方それとは対照的に、アジア以外の諸国では、菓子類がトップの国はひとつもありません。代わって多くの国でその他買い物代がトップとなっています。日本には魅力的な商品が散在していると考えられます。

投稿者プロフィール

立川 哲夫(たつかわ てつお)
立川 哲夫(たつかわ てつお)
株式会社いつも 執行役員 DX戦略グループ
D2Cモデル構築支援、販路DX支援、デジタルシェルフ総研の主任研究員を務めている。大手メーカー・老舗企業のECスタートアップ、D2C参入時の戦略・人材育成、海外展開戦略立案サポートを行いながら、企業向けEC研修・セミナーの講師・EC業界専門紙・メディアへの寄稿も多数行う。著書に「EC戦略ナビ」「EC担当者 プロになるための教科書」などがある。

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