調査報告

【定点観測】2021年の個人消費(年次総括)

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個人消費 定点観測

総務省統計局より四半期毎に公開されている家計調査は、日本の個人消費動向を考察する上で欠かせないデータです。本サイトでは「いち早く2021年の個人消費を振り返る」(https://itsumo365.co.jp/lab/13880/)と題し、2021年1月~9月までの家計調査のデータを基に、同年の日本の個人消費を考察しました。その後2022年2月8日に2021年10月~12月までのデータと共に2021年の年次データが公開されました。そこで今回は、その年次データを用いて同年の日本の個人消費動向を総括したいと思います。

物品購入総額とサービス総額の推移

2021年の(総世帯集計における)1家計あたりの年間物品購入総額は、1,527,267円となりました。2020年は1,536,925円であったので、9,658円のマイナスです。ただし、2019年比では3,437円のマイナスに留まっており、コロナ禍2年目ではあったものの、消費額が大きく落ち込んだわけではないと理解できます。

続いてサービス分野ですが、2021年の1家計あたりの年間サービス総額は1,070,902円と、2020年比で32,155円のプラスとなりました。しかし、2019年と比較すると132,491円と大幅なマイナスであり、2020年比でプラスの結果ではあるものの、コロナ禍において依然サービス分野は厳しい状況下にあると考えられます。

次のグラフはその1家計あたりの年間物品購入総額と年間サービス総額に関する直近10年間の推移です。このグラフからわかるように、コロナ禍で物品購入総額に大きな変動は見られませんが、2年連続でのサービス総額の落ち込みが顕著です。自宅で過ごす時間が多くなっても物品購入意欲に大きな変化はありませんが、やはりサービス分野への影響は甚大であると言えます。

直近10年間の1家計あたり年間物品購入総額と年間サービス総額の推移(単位:円)

出所:「家計調査」(総務省統計局)を加工して作成(https://www.stat.go.jp/data/kakei/index.html

物品購入分野の総括

ではカテゴリー別に見てみましょう。先ずは物品購入です。次のグラフは(1)食品、(2)雑貨・家具、(3)アパレル、(4)家電、(5)医薬品・化粧品、(6)書籍・雑誌・ソフトの各カテゴリー別での、1家計あたり年間購入金額の推移です。

(1)食品は2020年比でマイナス4,134円とわずかな減少に留まりました。減少ではありますが2019年までの水準と比較し依然高い値を維持しています。これは引き続き多くの消費者が外出を控えたことで、家庭での調理機会が多かったものと推測されます。

(2)雑貨・家具ですが、こちらも2020年比で1,949円のマイナスです。2019年までの水準と比較し依然高い値ではありましたが、2020年のデータと詳細を比較してみると、テーブル、ソファーといった一般家具で金額がやや減少したことが確認できました。2020年の反動が少し表れているといったところでしょうか。

続いて(3)アパレルです。グラフからわかるように、コロナの影響を大きく受けているカテゴリーでしょう。2021年も前年に引き続き厳しい結果となっており、実店舗からEC化へのシフトが急がれているカテゴリーです。

4)家電ですが、こちらはデータを見る限り2021年も好調だったようです。2020年は一人あたり一律10万円の特別定額給付金の給付が家電業界の追い風となったと言われており、2021年はその反動が出る可能性も考えられましたが、結果的には1,343円のプラスとなりました。データの詳細を見ると、冷蔵庫を除きほぼ全般的に堅調な結果がデータに示されています。

(5)医薬品・化粧品ですが、114,787円とマイナス2,981円でした。内訳を見ると、2020年比で化粧品類については大きな変化はありませんでしたが、保健医療用品にデータ上の差異が生じています。恐らくマスク、消毒液等の購入に関する差異と推測されます。

物品購入の最後は(6)書籍・雑誌・ソフトです。2020年比で124円マイナスとごくわずかな減少ですが、マイナスの項目は新聞であり、書籍、雑誌に関しては2020年比でプラスです。デジタル化の進行と活字離れの影響で、書籍、雑誌業界にとって厳しい状況が続いてきたことはよく知られていますが、コロナ禍でプラスになっていることは業界にとって朗報でしょう。

物品購入分野を総括すると、コロナ禍2年目でも引き続きプラス成長したのが(4)家電です。また、プラスではありませんが好調を維持できたのが(1)食品でしょう。(6)書籍・雑誌・ソフト市場は逓減傾向でしたが、ここにきて踏みとどまり、2020年と同レベルを維持した感があります。そして前年の反動が見られるのが(2)雑貨・家具、(5)医薬品・化粧品でしょう。そして(3)アパレルはコロナの影響が継続しているといった状況です。

出所:「家計調査」(総務省統計局)を加工して作成(https://www.stat.go.jp/data/kakei/index.html

 

サービス分野の総括

続いてサービス分野を見てみましょう。本稿ではサービス分野の主だったカテゴリーとして、(1)旅行、(2)外食、(3)娯楽関連、(4)教育、(5)理美容、(6)家賃をピックアップしてみました。

はじめに(1)旅行です。ここでいう旅行とは、宿泊費、パック旅行費を指し、航空機、鉄道等の移動費用は含みません。2021年は緊急事態宣言の期間が長期化したこともあり、旅行は18,878円と2020年よりもさらに金額は落ち込みました。この値は2019年の62,302円の約3割でしかありません。いかに旅行業界が苦境に陥っているのかよく理解できます。

同様のことが(2)外食にも言えます。2021年の金額は111,226円と前年比で4,095円マイナスとなりました。旅行ほどの落ち込みではありませんが、2019年比で約7割程度です。

コロナの影響が深刻なのは(3)娯楽関連も同様です。ここでいう娯楽関連とは、映画鑑賞、演劇鑑賞、スポーツ観戦、ゴルフプレー、スポーツクラブ利用、遊園地入場等です。2021年は前年比で1,677円プラスの22,953円ではありましたが、全盛期のレベルには程遠く、引き続きコロナの影響を受けています。

コロナの影響を受けたものの、2021年にはV字回復となっているのが(4)教育と(5)理美容です。前者は2020年に78,819円と大幅に下落しましたが、2021年は90,608円と急回復しています。オンライン形式での講義などが進展し、安心して受講できる環境が整ったことが起因していると思われます。後者も同様に2020年は31,329円と大きく下落しましたが、2021年は33,066円と以前の水準に戻りつつあります。長引く緊急事態宣言下ではあったものの、生活していく上で不可欠なサービスとして消費者が店舗に戻ってきたということでしょう。

最後に(6)家賃です。2020年、2021年と2年連続で大幅な上昇です。明確な理由が不明なのですが、自宅で過ごす時間が増えたことで、よりよい物件を求めた結果と考えられないことはありません。

サービス分野を総括すると、コロナによるマイナスの影響を2年連続で受けているのが(1)旅行、(2)外食、(3)娯楽関連、2020年の落ち込みからV字回復を見せているのが(4)教育、(5)理美容といったところでしょう。物品購入分野と比較し、サービス分野は未だ影響を受けていることが、数字上からよく理解できる結果となっています。

出所:「家計調査」(総務省統計局)を加工して作成(https://www.stat.go.jp/data/kakei/index.html

 

まとめ

物品購入分野およびサービス分野の各カテゴリーに関する2021年の状況を、以下の通りヨコ軸にコロナによる好影響/悪影響、タテ軸にさらなる好(悪)影響、大きな変化なし、反転(特需の反動またはV字回復)で二軸整理を試みました。このように整理すると、コロナによるカテゴリー別での消費への影響を、簡潔明瞭に把握することができます。個人消費動向の考察は、ECを含む全ての消費に関するデータをもとに行います。

したがって、EC市場を的確に把握する上で、土台となる個人消費動向の考察は高い意義をもつと理解しています。デジタルシェルフ総研では、2022年の個人消費動向についても総務省家計調査をベースとして四半期毎に定点観測を行い、事業者の皆様の戦略検討や事業推進に役立つよう定量的な視点でより良い情報をお届けしたいと考えています。

以上

 

投稿者プロフィール

本谷知彦
本谷知彦株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役
元大和総研チーフコンサルタント。1990年大和総研入社。証券系SE、IT特化の主任研究員、金融システムコンサルタントを経て、2013年より同社のコンサルティング部門にて企業の海外進出やデジタル事業に係る調査・コンサルティングに従事。2014年から2020年にかけて7年連続で経済産業省の電子商取引市場調査を手掛ける。2021年12月末に同社を退職し、2022年1月、ECを含むデジタルコマースに特化した日本初のシンクタンク「デジタルコマース総合研究所」を設立。現在に至る。

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