公開日:2022年9月26日

ASEANにおける小売・EC市場の潜在性

ASEANにおける小売・EC市場の潜在性

日本は経済先進国であることから、他の経済先進国同様、今後GDP年成長率5%を超えるような大幅なマクロ経済成長を見込むことは難しいと思われます。個人消費の観点で捉えると、EC市場規模は拡大中である一方、2021年の国内家計最終消費支出は282兆5,729億円となっており、個人消費が長年横ばいで推移しています(出所:「国民経済計算」における名目暦年実額(内閣府)による)。

他方メディア等で報じられているように、ASEAN諸国の経済成長は著しく、多くの国内企業が生産拠点および消費市場としてASEAN諸国に着目しています。そこで今回のレポートはECを含むASEAN諸国の小売・EC市場をテーマに、その全体像を俯瞰してみたいと思います。

世界の小売・EC市場


ASEAN諸国の小売・EC市場の俯瞰に際し、先ずは世界の小売・ECを見てみましょう。次のグラフは販売チャネル別での世界の小売市場規模に関する推移予測です。2021年の実店舗、ECそれぞれの市場規模は2,579兆円、689兆円となっています。

以降双方の販売チャネルの市場規模は拡大が見込まれており、2025年の実店舗の市場規模は2,970兆円と2021年比で15.2%伸長する予測となっています。一方同年のEC市場規模は1,148兆円と2021年比で66.6%と大幅に伸長すると予測されています。2021年から2025年までのEC市場規模の年平均成長率を計算すると、13.6%となります。世界的にEC市場が堅調であることを証明するデータと考えてよいでしょう。

世界の小売市場規模の推移予測(販売チャネル別)(単位:兆円)

出所:「Tech and Media Outlook 2022」(Statista)を加工して作成。135円/USドルで計算。

ASEAN主要6か国の小売市場規模


続いてASEAN諸国の小売市場を見てみましょう。そもそもASEANとはAssociation of South East Asian Nationsの略語であり、日本語では「東南アジア諸国連合」と言います。

ASEANはタイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ラオス、カンボジア、ミャンマー、ブルネイの合計10か国から構成されています。このなかで、経済規模が大きい主要6か国であるタイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンをピックアップし、2021年の各国の小売市場規模をまとめてみました。

 

ASEAN主要6か国の推定小売市場規模(2021年)

出所:「eCommerce Revenue , Sales Channels」(Statista)、および独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)発表等のデータをもとに株式会社デジタルコマース総合研究所独自の推計に基づき表記。135円/USドルで計算。

 

最も小売市場規模が大きい国はインドネシアです。これは同国の人口が2.7億人(出所:日本国外務省インドネシア共和国基礎データに基づく)であることが大きな要因と考えられます。次いでベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポールと続きます。当該6か国の合計の推定市場規模は111兆円です。

2021年の日本の小売市場規模が約150兆円(出所:「商業動態統計調査」(経済産業省))ですので、日本よりやや小さい規模の小売市場がASEANに存在しているということになります。経済成長に伴い当該国の小売市場規模も拡大すると予想されますので、数年後には日本と同等の規模になると予想されます。尚、外国為替レートの変動により、円ベースでの市場規模が多少変動する点については予めご留意頂ければと思います。

ASEAN主要6か国のEC市場規模


ではEC市場規模はどうでしょうか。次のグラフはASEAN主要6か国のEC市場規模に関するグラフです。いずれの国も増加傾向であることがわかりますが、国によってその傾向に差が生じると見られています。インドネシアは前述の通り人口規模が大きいこともあって市場規模が他国より大きく、また増加傾向も強いと予測されています。

ベトナム、タイ、フィリピンについてもインドネシアほどではありませんが、増加傾向であることが見て取れます。2025年の6か国合計でのEC市場規模は31.4兆円という予測結果になります。2020年の日本のEC市場規模が12兆2,333億円です。2025年頃に日本のEC市場規模が15兆円規模にまで拡大するとの仮定を置けば、ASEAN主要6か国の合計でのEC市場規模は日本の2倍程度に膨らむ計算になります。EC市場でも当該国の潜在性が高いということが言えるでしょう。

ASEAN主要6か国のEC市場規模予想(単位:兆円)

出所:「Retail e-commerce market volume in Southeast Asia from 2019 to 2021 with a forecast for 2025, by country」(Google、Bain & Company、Temasek Holdingsによる共同調査)のデータを加工して作成。135円/USドルで計算

ASEANへの期待


現在円安が進行しており、その流れはしばらく続くと予想されています。マクロ経済の観点から見れば円安によって日本の産業に対するマイナスの影響が懸念されています。一方で日本製品の海外展開に関して言えば円安は追い風となります。

また、2022年6月10日に日本政府は訪日観光客の入国制限を緩和しました。訪日観光客の数はまだ多くはありませんが、中長期的に見れば増加するものと思われます。訪日によって日本製品の認知度が向上すれば、帰国後のリピート購入という商機を掴むこともできるでしょう。したがって訪日観光客が増加することは日本製品の海外展開に間接的にプラスに作用するものと想定できます。

日本製品の海外展開と言えば、中国、香港、台湾といった中華圏を対象とする事業者も多いことでしょう。人口規模が大きいため売上も期待できますが、反面韓国など諸外国の事業者も含め中国市場での競争が激化していると考えられ、自社製品が相対的に埋没してしまうリスクも想定されます。

そのような点を踏まえれば、巨大な市場である中華圏のみならず、経済成長が期待されるASEAN主要6か国もあらたにターゲットとして考えてみると良いかもしれません。2019年のASEAN主要6か国の訪日観光客による買い物代金合計額は1,574億円です(出所:「訪日外国人消費動向調査_2019年の訪日外国人旅行消費額」(観光庁))。中国ほど大きくはありませんが、帰国後のリピート購入およびそれを起点にしたブランドの伝播という視点で捉えれば、大きな商機が眠っていると見て良いかもしれません。

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