公開日:2021年11月24日

中国・ASEAN、2021年度の海外EC市場の最新動向を展望する

中国・ASEAN、2021年度の海外EC市場の最新動向を展望する

「デジタルシェルフ総研」が海外EC市場の最新事情についてお送りします。

激動の2020年度が終わり、2021年度を迎えようとしています。

世界のEC市場は今後どのような展開を見せるのでしょうか?

本記事では、具体的には中国とASEANの最新トレンドを中心に今後の展望をお伝えします。

まずは、中国から状況を見ていきましょう。

中国、コロナ後のリベンジ需要で好調な「618」と「W11」

中国では2020年の2月くらいにはある程度コロナの影響も落ち着きまして、その後、6月18日には中国EC2位の京東商城(JD.com)の「618」のセールスイベントが開催されました。

また、中国EC1位のアリババグループのTmall(天猫)での「W11」(ダブルイレブン、11月11日「独身の日」のイベント)が開催されました。

両イベントが中国の2大セールイベントです。

W11は日本でも話題となり知られてきていますが、618も、2020年はコロナの影響が心配されていましたが、結果としては2019年を上回る大きな売上を記録しています。

背景には2点あり、一つはコロナのピークだった1~2月の春節の時期に買い物ができなかった分、「リベンジ購入」としてお金を使うことが流行ったことと、中国の消費が落ちたことで政府がクーポンをばらまいて刺激したことがあります。

中国は、政府が商流を伸ばそうとするとすぐ伸びる傾向にあるため、それが618にピッタリはまった形になります。

トレンドとしてはライブコマースが強く、手法としては今までKOL(Key Opinion Leader、インフルエンサーとも言う)中心だったものが、2019年末に電子メーカー社長がライバーとして出演した商品が売れたため、その流れに乗る形で有名メーカーの社長やスタッフが直接売るというパターンが増加しています。

2020年の中国は、コロナで春節期間にお金が使えなかった消費者は、SNSに「リベンジしました」という投稿を購入して掲載することが自己承認に働き、買ったものの変なものが届いてしまっても、「リベンジ購入した」という行動そのものに満足している様子が見られました。

これを知らなきゃ戦えない!?中国EC注目の3トピック

今後の予測もこの延長線になりますが、気になるトピックが3つほどあります。

一つ目は、消費者が欲しいものをメーカーが作る仕組みであるC2M(Consumer to Manufacturer)が本格的に動き出しています。消費者が欲しい物を発注すると、翌日にメーカーが作って翌々日に発送するなどという手法が、ここ1~2年をかけて拡大する見込みです。すでに日本企業にも中国でのC2Mに参入する動きが見られます。

二つ目は、ライブコマースは今後も伸びる見込みで、ライブ配信プラットフォームが変わる可能性はあるものの、TikTokや快手、モールなどのライブが今後も大きく伸びていくでしょう。

三つ目は、日本と同様ですが、広告費の高騰が激しく、今後もこれは解決しない問題として続く見込みです。広告効果の成否が2極化しており、広告での攻略難易度も高くなっています。

高騰が続く広告費ですが、光明としては有名人に高額を支払って一気に売上を見込むのではなく、地道に社長やスタッフがライブで売るという方向が出てきており、これが長期的な路線となりそうです。

中国では、この3つのトピックを捉えておかないと戦うことが難しいとすら言えるでしょう。

政府の動向次第、T-mallの地方進出、動画配信サイトとの連動も

その他の動きとしては以下のような展開が予測されます。

今後の中国は、中国の特性として政府の動き次第で大きく変わる部分もあるため、不確実性も多いのが事実です。

実際、中国当局とアリババグループの関係は、2020年10月の金融規制をめぐるアリババ創始者ジャック・マー氏の批判発言以降、急激な悪化が伝えられています。2021年3月現在、中国当局が電子商取引最大手アリババ・グループが独占的行為を犯した疑いがあるとして過去最高額となる制裁金を検討しているとの情報も流れています。

他方でアリババグループとしてはT-mallには、地方客があまりいないのが課題で、違うプラットフォームに客を取られているため、そこを奪いに行く可能性があります。地方は都会に比べると所得が少ないため、既存客に違うタイミングで買わせる方が早いのですが、政府の動き次第では大きく状況が変わると予想されます。

また、実はまだ活用されていないメディアが中国には多く、その一つにネットフリックスのような動画配信サイトがあります。まだECのプロモーションに紐付いてないため、急に絡んでくる可能性もあるのではないかと見ています。

次に、ASEANの動きを見てみましょう。

 

ASEANでもライブコマースが盛況、アプリのパーソナライズ化

コロナ禍があって、ASEANでもAmazonが人員を増やすなど現地物流が増えています。物量が増えた点は変わった点ですが、ASEAN自体は大きく変わったわけではなく、基本的にEC・スーパー・モールなど、バラバラのチャネルから必要なものを最安値で必要なときに買うという消費者のスタイルに変化はありません。

日本は楽天・Amazonの影響力が高いため商圏を囲うことが出来ていますが、そうした手法がASEANでは弱い状態です。

変わった点は、中国と同じくライブコマースが注目されるようになった点で、プラットフォーム内の広告にライブ枠が増えています。例えば、マレーシアは元々、人と人が会って直接モノを売るC2Cの習慣があるため、コロナ禍で会えない分WEB上で盛んに行われるようになっています。

また、ASEANではECアプリのパーソナライズ化が進んでいます。アプリのTOPを開いた瞬間、属性や過去商品などから商品リストが出てくるようになっており、楽天のような広告バナーは全く見られません。これもライブの話と近く、結局は買い手がモノを選ぶ手間を省く作業です。日本で多く行われている検索して比較するなどの調べる手間がASEANではあまり見られないのです。

背景には、探す手間・選ぶ手間を無くしていること

中国に加えて、ASEANでもライブコマースが売れる背景は、探す手間・選ぶ手間を無くしてくれることが原動力にあります。

日本とは異なり、商品を見ても本物か信頼できないため、しっかり調べる必要がありますが、調べれば調べるほど価格がバラバラで問屋次第となっており、真偽を確かめるのは難しくなっています。

日本は価格がある程度揃っていて、誤差は10%前後ですが、中国やASEANでは40%前後違うのが当たり前となっており、よくわからない商品も多いため、商品自体が良いものなのかチェックする手間が必要です。

日本はいくつか商品ページを見れば納得できますが、中国やASEANは膨大な手間がかかるため、むしろ信頼できる人が紹介しているなら商品も大丈夫だろうと判断しやすいのです。

また、ライブは基本が最安値でクーポンもあるため、気軽に購入できることが流行の要因となっています。

こういった日本と異なる環境条件において探す手間をなくす手段として、ライブコマースやパーソナライズ化が進んでいるのです。

商品数が拡大、価格ばらつき・偽物に課題、出店するなら今!?

ASEANのプラットフォーム自体が未だ成長途中ですが、「Shopee」や「LAZADA」は商品数が集まってきており、それが売上向上に繋がっています。結果として色々な人が商品を購入することで様々なデータが取れるため、またさらに商品を増やしたいということになっています。

これは日本の7~8年前の楽天と同じ感じの状態で、個人経営者の出店も多いなか信頼できる会社も出店してきており、とにかく出品される商品数が急激に増えています。

次のフェーズとして商品数が増えてきた際に問題になるのが、価格のばらつき・偽物問題で、信頼出来る店舗にしないと消費者が離れていくため、プラットフォームが既存の商品を精査し始めています。

中国では商品を出すとき受験書という公式の許諾がないと出店できないようになっており、このような規制が今後ASEANでも始まると見られます。

ASEANのプラットフォームは、商品を集めているフェーズから、今後中国のように規制が厳しくなることが予想されるため、出店するなら今のうちとも言えるでしょう。

ASEANは消費行動が複雑、出だしの認知フェーズの成功が重要

海外プラットフォームで日本のようにモノを売っていくことは、ASEANでは難しく、ECで儲かる構造も選択肢が少ない状況です。

Googleで検索してモールに行く、TV通販を見てネットやアプリで購入といった従来の方法のほか、いわゆる「Z世代」は2000年代以降のSNSが身近に生活にある世代なので、SNSで購入するなどの動きも同時に見る必要があります。

ASEANはSNS・検索・ECが同時に広まったため、日本よりユーザーの行動が複雑で固まりきっていないためより困難です。日本だと昔はSEOをやればある程度売ることができたのが、ASEANでは一定の期間で全部の取り組みをやらないといけない状況になっています。

実店舗・EC・SNSなど、中小は現実的にそれらを全て自社で行うのは難しいため、最初にファンがいる小売店にモノを卸すようになっています。現地バイヤー3社くらいと付き合って棚を取っていければコストも少なく、実店舗で商品を認知してもらう攻め方をしています。

最初のステップで認知を増やす攻め方に失敗すると撤退を余儀なくされるため、出だしが特に重要なフェーズと言えるでしょう。特にASEANのECは誰でも商品を並べられるため、広告を掛けても安い方が売れるなど、統制はまだとれていない状況であることもこうした要因です。

広告単価は安い半面で効果も薄い、高額商品の価値の伝え方

国別のデジタル広告費を見ると、日本や中国など広告の市場規模が多いところは入札式がほとんどで、広告費の単価が高くなっています。他方で、ASEANでは競争が激しくないため広告単価が低い半面で、ECの市場規模も小さいため、情報が誤って伝わりやすい状況と言えるでしょう。

また、広告単価が安いので良いと思われがちですが、市場規模が小さいため、投資効果自体はあまり変わらないことに注意が必要です。

さらに、売れる単価が小さいので、日本では4,000円くらいの頭皮ケア系シャンプーでも、お悩みのある方向けにはそれなりに購入してもらえますが、その商品をそのままマレーシアに持っていくと、日本人の感覚でいうとシャンプーを1万円以上で購入するようなスペックのものとなるため、ほぼ買えない金額になってしまいます。

その国際感覚が日本では浸透していないことに加え、日本では輸入品は高いという意識があるため、逆に6,000円などと日本より高く値付けをしてしまうこともあるようです。高額商品を買う価値をどのように伝えられるかというところは仕掛けと工夫が重要になります。

現地の消費者感覚を理解しないと、現地メーカーに太刀打ち出来ず

日本側の課題としては現地の消費者感が欠落している点であり、日本の商品ありきで考えていると自ずとハードルはかなり高くなります。現実的には厳しい話として、現地の所得が上がらない限りは、この認識の差は解決しない問題と言えるでしょう。

日本メーカーが言う「高品質だから高くても売れる」というのは嘘で、例えばベトナムは日本の感覚からすると生産拠点のイメージがありますが、ベトナムにも現地メーカーが出来てきています。

成功しているベトナムメーカーは生産を中国に出して、マーケティングやブランディングはベトナムで行うなど、消費者ニーズを掴んでいる生産力の高い現地メーカーと戦うことになります。

現地メーカーが現地に合わせた商品を作っているのに、日本の高額商品で戦えるかというと疑問が残ります。現地消費者が、何に価値を感じているかを探ってキャッチする必要があるのです。

商品を並べて現地の反応を見たり、問い合わせ対応して何を現地の消費者が求めているのか、価格帯なども知る必要があります。現地のバイヤーや消費者と商談をして温度感を知っておかないと、この先は難しくなっていくでしょう。

一足飛びに越境ECで本格的に売り出すのは難しいのです。越境ECでは、テスト的に商品を並べて得た情報を元に、現地向け商品をマーケティングしてから作り、輸出入であらためて持っていく必要があります。

「日本の商品で何が売れるか」ではなく、「現地では何が欲しいのか」という考え方にシフトする必要があります。

以上、海外EC市場の最新事情について中国とASEANを取り上げお伝えいたしました。

ぜひ、日本メーカーの海外展開の指針としてもご参考にしていただければ幸いです。

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