[日米比較]インターネット広告費の比較から見えてくるもの
マスコミ四媒体広告費を上まわりつつあるインターネット広告費
私たちは日々の生活の中であたり前のようにインターネット広告に触れています。広告の世界では長らくの間、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマスコミ四媒体による広告が主流でした。しかしながら、インターネットの普及と共に広告媒体としてのインターネットの活用が一般化し、年々その存在感が高まっています。次の図表は2011年から2020年までの10年間の、マスコミ四媒体広告費とインターネット広告費の経年推移をグラフ化したものです。見ての通り、長期トレンドとして、前者は逓減傾向、後者は逓増傾向にあることが一目でわかります。
そして2020年は新型コロナウイルス感染症拡大に伴うマクロ経済の停滞の影響を受けて、マスコミ四媒体広告費が2兆2,536億円と大きく落ち込んだ一方、インターネット広告費は2兆2,290億円と堅調に上昇トレンドを維持したことから、両者の差はほぼなくなっています。このトレンドから予想するに、マスコミ四媒体広告費が仮に下げ留まったとしても、2021年はインターネット広告費が上回る可能性が考えられます。実際にそうなったとすれば、2021年はインターネット広告費がマスコミ四媒体広告費をはじめて追い抜いた年として、これから先、人々の記憶に残る年となるかもしれません。
個人消費全体のなかでのインターネット広告の重みは?
日本のインターネット広告費が増加傾向にあるのは上述の通りです。そもそも広告とはモノやサービスの販売を促進させるための経済活動です。とすれば、個人消費全体の中でのインターネット広告の重みはどうなのでしょうか?内閣府経済社会総合研究所発表する国民経済計算(GDP統計)によりますと、2020年の個人消費の市場規模にあたる「家計最終消費支出」(※以降、個人消費支出総額とします)は280兆4,924億円となっています。この値を分母、インターネット広告費2兆2,290億円を分子とすると、0.795%という算出結果になります。これが何を意味するかですが、10万円の個人消費に対し、インターネット広告費が795円分投入されたという理解になります。さて、この数値が果たして大きいのか小さいのか、これだけではわかりません。そこで同様の計算を、日本よりもマクロ経済の規模が格段に大きい米国のデータで行い、両国を比較してみましょう。次の表はその結果をまとめたものです。
下記を加工して作成:
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- 日本のインターネット広告費:「日本の広告費」(株式会社電通)を参照
- 日本の個人消費支出総額:「国民経済計算(GDP統計)」(内閣府経済社会総合研究所)の「実額・年度」を参照
- 米国のインターネット広告費:「S. digital advertising industry – statistics & facts」
(Nov 4, 2021)(Statista Inc. Research Department)を参照 - 米国の個人消費支出総額:「National Income and Product Accounts/Table 2.1. Personal Income and Its Disposition」(米国商務省経済分析局)を参照
- 2021年11月17日時点の為替レートに基づき、114円/米ドルで計算
米国のインターネット広告費は17兆4,420億円と日本の約8倍の規模です。また個人消費支出総額は1,649兆3,064億円となっています。インターネット広告費を分子、個人消費支出総額を分母で計算すると1.058%という結果になりました。日本の場合、個人消費10万円あたり795円がインターネット広告費として投じられた計算になりますが、米国の場合は個人消費10万円あたり1,058円という数値になります。日米を比較すると、米国は日本の1.33倍です。すなわち、米国の方が日本よりも1.33倍インターネット広告を活用しているということになります。
EC市場規模での比較でも米国が上
上の項ではインターネット広告費を分子、個人消費支出総額を分母として計算し、個人消費に対するインターネット広告費の投入比率を求めました。インターネット広告はECのみならず実店舗を含めた全ての個人消費に対し広告効果をもたらすものです。したがって上の項では個人消費支出総額を分母としました。とはいえ、広告媒体がインターネットですので、実際にはECへと流れる比率が高いことが予測されます。そこで、個人消費支出総額ではなく、EC市場規模を分母に据えてインターネット広告費の比率を見てみることにしましょう。
経済産業省発表の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、国内のBtoC-EC市場規模は19兆2,779億円となっています。同報告書には米国のBtoC-EC市場規模も米ドルで記載されており、その額を日本円に換算すると90兆5,703億円となります。インターネット広告費の比率を計算すると、日米それぞれ11.562%、19.257%という値になりました。両国の数値を比較すると、米国の方が日本よりも1.67倍高い値になります。個人消費支出総額と同じく、EC市場規模との比較からも、米国の方がより積極的にインターネット広告を活用しているということが言えると思います。
下記を加工して作成:
- 日本のEC市場規模および米国のEC市場規模:「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」(経済産業省)を参照
- 再掲分については省略
- 2021年11月17日時点の為替レートに基づき、114円/米ドルで計算
GDPでの比較ではどうか?
続いての比較はGDP(国内総生産)です。GDPは国家の経済規模を示す代表的な数値であり、国家間の経済規模を比較する際に多用されます。そこで、日米両国のGDPをもとに同様の比較を行ってみます。
下記を加工して作成:
- 日本のGDP、および米国のGDP:「World Economic Outlook Database: October 2021」(国際通貨基金)を参照
- 再掲分については省略
- 2021年11月17日時点の為替レートに基づき、114円/米ドルで計算
2020年の日本のGDPは528兆9,605億円、米国のGDPは2,095兆8,558億円です。GDPを分母、インターネット広告費を分子として計算したところ、日本、米国それぞれ0.421%、0.832%となりました。個人消費支出総額での比較は1.33倍、EC市場規模では1.67倍でしたが、GDPではそれらよりももっと大きい1.97倍の差となりました。
伸びしろが大きい日本のインターネット広告費
インターネット広告費を分子とし、分母には個人消費支出総額、EC市場規模、GDPを置いて計算したところ、いずれのケースにおいても日本よりも米国の値が大きい結果となりました。GAFAに代表されるように、インターネットの世界では米国がイニシアティブを握っています。そう考えればこの差に納得してしまうかもしれません。しかしながら、両国ともにインターネットが一般に普及しており、インターネット利用者比率ではほとんど差がないにもかかわらず、インターネット広告では大きな差があるということは、日本のインターネット広告はまだ伸びしろが十分にあると考えてよいと思います。
インターネット広告は販売チャネルを問わず全ての個人消費に効果をもたらすものです。個人消費はマクロ経済を下支えする重要な役割を担っていますので、インターネット広告によって個人消費が今以上に刺激されるのであれば、マクロ経済全体にとっても非常に良いことではないでしょうか。また先述の通り、広告媒体がインターネットということもあって、結果的にECが最も恩恵を受けやすいと思われます。EC市場の拡大のためにも、インターネット広告のさらなる活用度の向上が期待されます。