ライブコマースの歩み
これから先、企業にとってライブコマースは間違いなく重要な販売手段の一つとなると考えられています。そこで当社ではライブコマースをテーマに複数回にわたって連載をはじめました。第1回目の記事では、ライブコマース実施の5つの方法について、それぞれの特徴・メリット等について述べました。
第2回目の今回のテーマは「ライブコマースの歩み」です。ライブコマース大国である中国、そして米国、日本のライブコマースのこれまでの歩みについてまとめたいと思います。既にライブコマースに取り組んでいる方々のみならず、これから検討しようとしている方々も含め、本ブログが皆様の参考となれば幸いです。
中国におけるライブコマースの歩みと着目点
歩み
中国でライブコマースが始まったきっかけは、2016年5月にアリババグループのECプラットフォームであるタオバオが始めた「Taobao Live」と言われています。当時中国ではECの利用者が爆発的に増加する時期であったため、ライブ配信を見ながらECで買い物ができるというスタイルの斬新さが消費者に受け、Taobao Liveは大きな注目を浴びました。
その流れの中で、2018年頃から頭角を現したのが、Tik Tokを運営するバイトダンス社による「Douyin(抖音・ドゥイン)」、およびDouyinのライバルである「Kuaishou(快手・クアイショウ)」です。なお、前者は都市部の若者に人気で後者は農村部の若者に人気があるとも言われており、お互いにターゲットが異なっている点が特徴的です。
さらにDouyinとKuaishouにTaobao Liveを加えたライブコマースプラットフォームの利用に拍車をかけたのが、11月11日の「独身の日」である点も付け加えておきます。2009年にアリババグループによって始まった独身の日ですが、年を経るごとにますます盛り上がりを見せるなかで、2018年以降はライブコマースがその一翼を担ったと目されています。そのような状況を見て、あらたにEC大手のJD.com(京東・ジンドン)などもこの時期に参戦し、ライブコマースプラットフォーム間の競争がますます激しくなりました。
そして消費者によるライブコマースの利用が定着化した出来事が、2020年の新型コロナウイルス拡大によるパンデミックです。これによりライブコマースのニーズが最高潮に達し、利用が一気に加速することとなりました。以降コロナが収束した現在に至るまで、ライブコマースは中国ですっかり定着した取引手段となっています。
着目点
中国におけるライブコマースを語る上で欠かせないのが、インフルエンサーの存在です。インフルエンサーがライブコマース界をけん引している点が同国の特徴となっています。著名なインフルエンサーはライブコマースを通じて日本円で年間数十億円の利益を稼ぐ人もいるようです。規模の大きさに驚いてしまいますが、このように中国ではインフルエンサー主導でライブコマース市場が形成されているとも言えます。
またその現状は「MCN(Multi-Channel Network)」の存在から理解することもできます。MCNとは簡単に言うとインフルエンサーを専門的にマネジメントする組織や企業体を指します。MCNの役割はそれだけに止まらず、コンテンツ企画や制作、マーケティングやプロモーションなども手掛けています。ある意味企業とインフルエンサーとの間に位置するエージェントのような存在です。著名なインフルエンサーが単独でライブコマースに登場しているわけではなく、多くのケースで組織的かつ専門的な支えがあってライブコマースが運営されているということです。世界最大のライブコマース市場だけあって、一歩も二歩も進んでいる印象を受けます。
米国におけるライブコマースの歩みと着目点
歩み
続いて米国におけるライブコマースの歩みについて触れたいと思います。2016年頃にFacebookやInstagramがライブ配信機能を提供し始め、これを使用して複数のブランドが視聴者をコマースへと誘導する動きがありました。これが米国でのライブコマースの起源とされています。しかしながら中国と同じく2016年がライブコマースの起点となりましたが、米国では中国ほど極端に速いペースで消費者に浸透したわけではありません。
米国でライブコマースが本格化しはじめたのは、2020年頃、すなわちコロナ禍だと見られています。米国も中国同様にコロナ禍でライブコマースの利用が拡大した点は同様です。しかし、中国ではコロナ前に既にプラットフォームが出揃い、消費者によるライブコマースの利用が既に定着化していました。一方で米国におけるコロナ前の状況は中国の様に定着化までには至っていませんでしたので、その点が米国と中国で状況が異なります。
例えば、Amazonはライブコマース「Amazon Live」を2019年2月に開始しましたが、利用が活発化したのはコロナ禍の2020年に入ってからです。また米国大手スーパーマーケットチェーンのWalmartがライブコマース「Walmart Live」を開始したのは2020年12月と、コロナが拡大してからとなっています。その他「Popshop Live」「NTWRK」といったライブコマースプラットフォームが有名であり、前者は2019年、後者は2018年の設立ですが、消費者の利用が本格化しはじめたのは2020年に入ってからと思われます。
現在Amazon LiveやWalmart Liveなどが多くの消費者に利用されています。中国ほどではありませんが、日本と比較すれば米国でのライブコマース市場は大きな規模となっているようです。
着眼点
米国でもインフルエンサーがライブコマースに登場するシーンは多いです。しかしながら中国とはやや状況が異なっており、インフルエンサー以外の方々も多く登場しています。具体例としてコスメブランドの場合、メーカーのマーケティング担当者や創業者自らがライブ配信を行うことがあります。またWalmart LiveではWalmartの店員が自身の勤務する店舗での販売商品を紹介すると言ったライブ配信も見かけます。このように米国ではライブコマースの登場者に多彩さが見られる点が特徴的です。
また、そもそも米国ではテレビ通販が1980年代から普及し始め、QVCやHSNといった有名なプレーヤーが存在しています。つまり放送を視聴しながら買い物するスタイルは以前から既に確立していたわけです。ある意味テレビ通販とライブコマースは似通った存在ですが、同国のライブコマースの歩みを振り返ると、必ずしもテレビ通販がライブコマースの下地になったわけではないことが理解できます。
日本におけるライブコマースの歩みと着目点
歩み
日本ではFacebookライブが2016年2月から、またインスタライブが同年11月から始まりました。これらはライブ配信に特化したものであり、コマース機能を含めたライブコマースは2017年あたりから事例が見られるようになりましたが、Facebookライブやインスタライブは、今日のライブコマースの礎になったとの見方ができるかもしれません。
同時期にライブコマースが日本でも始まった背景には、中国におけるライブコマースの盛り上がりがあったと思われます。ライブコマースを実施できる具体的なITツールについては、日本企業によって独自に開発されたものや海外からの新規参入によって、その選択肢が広がりました。またITツールを使わずにできる方法として、Yahoo!ショッピングが2017年11月に参入し(※現在は終了)、楽天も2019年5月にライブコマースを開始しました(※一旦終了後、現在は再開)。
ただし、日本でライブコマースが本格化し始めたのは、米国同様コロナ禍の2020年です。人々の外出が制限されたことで、実店舗を構える企業は大きな影響が出たわけですが、少しでも売上を確保すべく、2020年には多くの企業がライブコマースを開始しています。加えて、2020年にはライブコマース専用のモールである「Peace You Live」が登場することとなります。専用モールはPeace You Live以外にも多く登場し、ライブコマースを実施したい企業にとって、さらに選択肢が増えることとなりました。
現在、中国や米国ほど大きな市場規模ではありませんが、日本でもライブコマースが浸透しつつあり、ひとつの販売チャネルとして確立した状態にあると考えてよいでしょう。
着眼点
日本におけるライブコマースは、実店舗のスタッフが登場するケースが多いように思われます。これはコロナ禍で実店舗に足を運べない消費者に対し、実店舗のスタッフがライブで商品説明と販売を行ったというスタイルが定着化したものと見て取れます。したがって日本の場合実店舗を交えたOMO(Online merges with Offline)的な発想をもって取り組んでいる企業が多いかもしれません。
一方で、日本にもインフルエンサーは存在しています。よって、中国の様にライブコマース専用モールを舞台にライブコマースが展開される事例も多くあります。当社のグループ会社が手掛けているPeace You Liveがそれに該当します。もちろん専用モールを使用して実店舗スタッフがライブコマースを行うことも可能です。
いずれにせよ、日本では専用のツールを使用したり、楽天市場のようなECモールを活用したり、Peace You Liveのような専用モールを活用したりなど、幅広い選択肢が提供されています。海外に劣らずライブコマースを実施しやすい環境が整っていると言えるでしょう。