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WTOでEコマースに関する新ルール作りが進展、世界経済の回復のカギに

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「デジタルシェルフ総研」がEC分野における国際ルール作りの最新動向についてお送りします。

世界貿易機関(WTO)での新しいルール作りの柱の一つである電子商取引(EC)交渉は、感染症の禍中となった2020年もバーチャル形式の会合に切り替えて交渉が継続され、2020年末には「統合交渉テキスト」が作成されました。

同交渉では、2021年12月に開催予定の第12回WTO閣僚会議(MC12)までに実質的進捗を達成することを目指し、交渉を加速しています。

米国のトランプ政権下では紛争処理や事務局長が不在となるなど機能不全が指摘されていたWTOですが、多国間協調を標榜するバイデン新政権のもとで、新たなWTO事務局長として2月にはオコンジョイウェアラ氏が選出されるなど前向きな動きがあり、交渉の進展も期待されています。

特にパンデミックに伴い世界的な不況となった2020年より、世界経済を回復させるための切り札としてECのルール化への注目が高まっています。そんな中、日本は豪州やシンガポールとともに、世界的なEC取引のルール化を進めるEC交渉の共同議長国として交渉をけん引する立場にあります。

本記事では世界規模のEC市場の今後を左右する同交渉の取り組みの進捗状況と今後どのような成果が期待されるのかを考えます。

まずは同交渉の経緯と現状から確認します。

WTOにおけるECの国際ルール作りと進捗

日本は、2019年夏のG20大阪サミットの機会に「デジタル経済に関する大阪宣言」を発出し、デジタル経済、特にデータ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りを進めていく「大阪トラック」の立上げを宣言しました。

その中心的な取組の一つがWTOにおけるECのルール作りであり、日本は、共同議長国として、豪州及びシンガポールと共に交渉を主導しています。

また、同交渉への参加国は、世界貿易の90パーセント以上を占め、日・米・欧・中などの主要国を含む86加盟国にまで増加しています。

2020年2月のジュネーブにおける会合以降、世界的な感染拡大により一時中断を余儀なくされましたが、バーチャル形式の会合も活用し、2021年に開催予定の第12回WTO閣僚会議(MC12)までに実質的進捗を達成することを目指し、継続的に協議が行われています。

昨年12月にはEC共同イニシアティブの共同議長報告「統合交渉テキスト」がまとめられました。

同テキストは、パンデミックは、デジタル・トランスフォーメーションを加速させ、ECは世界経済の回復のために不可欠であり、本交渉でのルール作りは、WTOがこの変化に応える機会になるとしています。また、円滑化、自由化、信頼性、横断的事項、電気通信、市場アクセス、適用範囲及び一般的規定に関して広範かつ建設的な議論を行い、次の交渉段階の基礎となるとしています。

主要な進展として、電子署名及び電子認証、ペーパーレス貿易、電子的な送信に対する関税、公開された政府データ、インターネット・アクセス、消費者保護、迷惑メール、ソースコード等については、少数国会合において良好な進捗が得られたと述べています。

さらに、データ流通を促進する規律は、高い水準で商業的に意義のある成果に必須であるとして、2021年前期にはこれらの議論を一層深めるとしています。

感染症のパンデミックは、経済成長を持続させる上でのデジタル経済・変革・技術の役割を増大させており、ECに関するグローバルな協力を一層進展させるインセンティブとなりうるものであるとして、日本政府は、第12回WTO閣僚会議(MC12)に向けて、経済界の意見も踏まえつつ、高い水準のルール作成を目指して、引き続き交渉を加速していく方針を示しています。

次に、より具体的にどのようなルール作りが進められているのか見ていきましょう。

ECのどの分野でどのようなルールが議論されているのか

同交渉では、「自由」と「セキュリティ」のどちらを優先するかで原則的立場の対立が見られます。
また、どこまで民間ビジネスに規制をかけるべきかという点についても国毎にアプローチの違いが生じています。

自由で開かれた流通

まず、自由で開かれたデータ流通についての論点としては、「情報越境移転」と「データ国内保存要求の禁止」というキーワードが挙げられます。

「情報越境移転」は、個人や取引先企業の属性情報や購入履歴等に関するデータを、国境を越えて移転することを原則として許可することです。これにより、事業者は国境を越えて顧客の関心やニーズに応じた事業を展開することが容易になるものです。

「データ国内保存要求の禁止」は、ある国で事業を行う場合に、その国の領域内に設置されたサーバーなどにその国での事業で得られたデータを保存することを禁止することを指します。これにより多額の投資や拠点設置を伴わずに海外の消費者や企業と直接取引できるようになるという利点があります。

情報セキュリティ

次に、情報セキュリティについてです。ここでは、「ソース・コード/アルゴリズムの移転・開示要求の禁止」、「個人情報保護/消費者保護」、「ICT製品の暗号開示要求の禁止」などが論点です。

まず、「ソース・コード」とは、コンピュータ・プログラムを作る際に、そのプログラムにどのような動作をさせたいかを記載した内容(テキストファイル)のことです。例えば、ウェブサイト上で、商品ページでカートのボタンを押したら、商品がショッピングカートに加えられるなどの処理があります。

次に「アルゴリズム」は、コンピュータに行わせる手順・計算方法のことです。例えば、検索エンジンで、キーワードを入力したときに、どのようなページを上位に表示させるかの優先順位付けが分かり易いものです。これらは、企業にとっては重要な企業秘密かつ財産であり、これらの開示を強制されないことは企業が国境を越えてECを行う上で大きな安心材料とされます。

また、「個人情報保護/消費者保護」は、国際的に一定の保護基準を設けることで、個人が安心してグローバルなデジタル経済に参加できるようになることから重視されています。

最後に「ICT製品の暗号開示要求の禁止」は、PCやネットワーク・ルーターなどのICT製品のデータなどの暗号化を意味します。これらの開示を禁止することで、ICT製品に含まれる企業秘密やICT製品を介した通信の保護が危険にさらされるリスクを軽減することができるとされます。

 

国際ルール作りの今後の展望

こうした交渉の背景には、中国などで広がるデジタル保護主義への日米欧の対抗の図式があります。また、先進国の中でもEUの「一般データ保護規則(GDPR)」やプライバシー保護を重視する姿勢に対しては日米は異なる姿勢も見せています。さらには、いわゆるGAFAへの規制や米中のデジタル経済をめぐる覇権争いの激化もあります。

現在交渉中の案件であり今後は予断できませんが、WTOには世界貿易の変化の中で新たな国際ルールの構築が求められており、ECは、投資円滑化、中小零細企業(MSMEs)、国内サービス規制とならぶ4つのWTOルールの近代化の課題の一つに数えられています。

特にECは2020年に生じた世界恐慌とも言える事態のなかでも大きな伸張を果たしている分野であり、世界経済回復の切り札を握る分野とも見られています。このことから、そのルール化は今後の世界経済にとっても喫緊の課題と言えるでしょう。

デジタルシェルフ総研では、EC分野における本年のWTO交渉の行方を今後も注目していきます。

参照文献:

WTO”JSI on E-Commerce: Co-Conveners’ Update”2020年12月

経済産業省「WTO電子商取引交渉の共同議長報告を発表しました」2020年12月15日

外務省「第25回:WTOでの新しいルール作り:4つの「JSI」とは(その4:電子商取引)」2021年3月15日

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