グローバルビジネスの基礎知識⑦~世界貿易機関(WTO)
海外渡航が困難な状況が長期化する一方で、貿易取引については依然として活発に行われています。
国内でのEC事業から、新たに海外進出を計画されている方も多いのではないでしょうか?
グローバルビジネスの基礎知識をお伝えしている本連載の第七回は、世界貿易機関(WTO)についてご説明をします。
GATTとWTO
1929年に始まった世界恐慌とその後の世界のブロック経済化は第二次世界大戦の引き金となったと言われています。
GATT(関税と貿易に関する一般協定)はこの反省に基づき、最恵国待遇(MFN)と内国民待遇(NT)の無差別原則をもとに、自由貿易を実現することを目的として1948年に設立されました。
以降数度の一括関税削減の交渉(ラウンド)を経たウルグアイラウンド(1986-1994年)により、モノの貿易のみならず、サービス(GATS)や投資(TRIM)、知的財産権(TRIPS)、農産物などより幅広い貿易の自由化とルール化を目指す国際機関として1995年に設立されたのがWTOです。
なお、GATTはモノの貿易に関する貿易協定としてWTOの一部を構成しており、消滅したわけではありません。
ドーハラウンド
WTO設立後、ドーハラウンド(DDA)は8分野(農業、鉱工業品、サービス、ルール、貿易円滑化、開発、環境及び知的財産権)の交渉を目的として2001年に開始されました。
2008年7月には妥結の一歩手前までこぎ着けたもののインドや中国、ブラジルなどの新興国と米国・EUなどの先進国が対立をしてその後、交渉は膠着状態が続きました。
現在は、一括妥結は当面の間、実現不可能であることを認め,部分合意等を積み上げる新たなアプローチを試みることで一致し、有志国(プルリ)交渉(情報技術協定(ITA拡大),新サービス貿易協定(TiSA)、環境物品自由化交渉などが推進されています。
また、交渉が停滞するWTO体制を補完するものとして急速に期待が高まったのが二国間や地域でのEPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)の交渉です。
WTOとFTA
先述の通り、最恵国待遇がGATTの基本的原則とされ,特定国間だけの関税の引下げは許容されない原則となっています。しかし、GATT24条では、この例外として、域内での障壁を実質的にすべての貿易で撤廃すること、域外に対して障壁を高めないこと等一定の要件の下に地域貿易協定(RTA)を認めました。
この規定に基づいて、ドーハラウンドの停滞により、急速に進んだのがFTA(地域貿易協定のことを世界的にはFTAと称し、日本ではEPAと称している。)です。日本では2002年発効のシンガポールの協定を皮切りに推進されました。
最も代表的な交渉としてはTPP(環太平洋パートナーシップ)協定があり、電子商取引(EC)、競争政策、知的財産権、環境などを含む包括的な自由度の高い協定となっています。
紛争処理
WTOのもう一つの特徴として紛争解決制度があります。これは、加盟国の貿易紛争をWTOルールに基づいて解決するための準司法的制度で個別の紛争解決におけるWTOルールの明確化を通じ、WTOの下での多角的自由貿易体制に安定性と予見可能性をもたらしており、WTOの中心的な柱の1つをなしています。
しかし、WTOの紛争処理手続きは、トランプ前政権下の米国が紛争処理の上級委員の補充に反対することで、審議ができなくなり機能不全が生じました。米国は、中国政府による産業補助金や知的財産権の侵害といった問題で、WTOが中国に有利な判断を下したことを問題視したものです。WTOの紛争処理機能の不全はバイデン政権下においても解決にはいたらず長期化しています。
自由貿易を推進するWTO協定の成立は、農産物、特にコメの輸入自由化をめぐりかつて大きな国内的な関心も集めました。しかし、現在では新たなラウンド交渉の停滞や米国による一方的な関税措置や米中対立、紛争処理機能の機能不全などにより大きな困難に直面していることも事実です。
さらに、感染禍における各国での経済安全保障論争の高まりを含めて今後のWTOと自由貿易体制の動向については注視していくべき状況であると言えるでしょう。
以上、グローバルビジネスの基礎知識としてWTOについてお伝えしました。
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