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宅配便の“再配達率”の考察 ~率下落への期待感がある一方でゼロにはなりづらい根深い原因を探る~

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宅配便の“再配達率”の考察 ~率下落への期待感がある一方でゼロにはなりづらい根深い原因を探る~

再配達はどれくらいの比率で発生しているのか

ECの市場規模拡大に伴い、宅配の再配達が社会問題化して久しく時間が経過しています。再配達は宅配事業者におけるドライバー不足の深刻化のみならず、CO2排出量の増加にもつながるため、極力ゼロに近づけることが理想です。事態の重さに鑑み、国土交通省は「総合物流施策大綱」を定め宅配便の再配達率の削減に取り組んでいます。その一環として同省は再配達の実態の定量的な把握を目的に、2017年から年2回、4月と10月に実態調査を実施しています。ちなみに同省による数値目標は「2020 年度10%程度 → 2025 年度7.5%程度」とされています。本レポートではその実態を理解すべく、これまでの調査結果の推移を折れ線グラフで次の通り視覚化してみました。


(出所:国交省宅配便の再配達率サンプル調査2021年)

下降トレンドの可能性

まず真っ先に目に飛び込んでくるのは、2020年4月時点で再配達率が大きく下落している点でしょう。このタイミングですから、コロナによるステイホームのおかげで再配達率が大きく下落したというのが容易に想像できます。その後再配達率はコロナ前の水準とまではいかないものの、都市部、都市近郊部、地方、それぞれ上昇に転じています。これはステイホームが多少緩み、街の人出が増加していることと関係があるように思われます。
それはさておき、この折れ線グラフで注目したい点があります。それは長期トレンドでの変動です。2020年4月急激に下落したため長期トレンドが読みづらいのですが、2017年からの数値の推移を見ると、下降トレンドに入っている可能性が考えられます。再配達率の改善を目指し、置き配や店舗受け取り(BOPIS:Buy Online Pick-up In Store)が浸透してきていますので、その効果が出ているのかもしれません。2021年4月に都市部だけ上昇しているのが気になるのですが、仮に下降トレンドだとした場合、これはEC業界にとって非常に良いニュースになります。だた、そうだと判断するにはもう少し今後の実態調査の結果を見る必要がありますので、同省より今後発表される結果に注目しましょう。

都市部で高い再配達率、その原因は?

もうひとつ、折れ線グラフで気になる点があります。それは、都市部>都市部近郊>地方の順で再配達率が高い傾向にある点です。この順序は2020年4月以外変わりありません。この理由は何でしょうか。都市部だけ宅配事業者が手を抜いているわけではないでしょうし、都市部の消費者の方が地方よりも受け取り方法に問題があるとは考えにくいです。根本原因を突き止めるにはより深いデータ収集と分析が必要ですが、以下の仮説を置いてみました。

① 地方よりも若い方の単身世帯の比率が高いために、再配達になりやすい
② 交通渋滞によって時間通りの配送を達成しづらい
③ そもそもの宅配便の量が物理的に多い
④ 大小道路が入り組んでおり、当日の宅配便の状況に応じて最適な配送ルートを見出すことが容易ではない

この仮説が正しければ、宅配便事業者やEC事業者の自助努力によって解決でき得る部分とそうではない部分が交錯していることになります。仮に理論上自助努力で解決できる部分があるとしても、事業者にとって経済合理性を伴わなければ実現できません。再配達の問題は、「宅配便事業者やEC事業者が何とか解決するもの」とか「消費者側の対応も重要」などという声もあるかと思います。

しかしながら再配達の削減を目指すとすれば、実態をより細かく分析したうえで、例えばアイデアとして

(1)都市の規模別に交通インフラの特性に合わせて対策を検討する<宅配便事業者>、
(2)中央政府だけではなく地方自治体をも巻き込みそれぞれの土地にあった政策を推進する<中央政府・自治体>、
(3)若い層の単身世帯に対し啓発活動を行う<中央政府・自治体>、
(4)AI等を使用した最適配送ルート検索システムの高度化を推進し、異なる事業者で共有できるスキームを構築する<官民一体>など、より一歩踏み込んだ施策が必要ではないでしょうか。

ご参考:再配達率の削減のCO2削減効果

最後に、再配達率の削減の効果をCO2への影響から定量的に計算してみましょう。民間シンクタンク大和総研より2021年6月2日付で同社ホームページ上に公開されている調査レポート「日本のCO2排出動向と貨物輸送の課題」によれば、再配達率が1%削減すると、CO2排出量が年間2万トン減少するとの試算結果になっています。2万トンという数値だけ耳にすると具体的な効果のイメージがわきませんので、日本の1世帯あたりの年間排出量で置き換えましょう。

環境省は、2019年の1世帯あたりのCO2排出量は年間で2.72トンであったと発表しています。2万トンをこの数値で割ると、7,353(小数点以下四捨五入)となります。すなわち、1%の削減で7,353世帯の年間CO2排出量を削減できることになります。都市部、都市部近郊、地方をあわせた国内全体での再配達率のピークは2019年4月の16.0%です。政府は2025年に7.5%程度を目標としていますので、この目標をもし実現できれば、ピーク時から8.5%削減できることになります。削減できる年間CO2排出量は17万トンに及び、世帯数で換算すれば、62,500世帯の年間CO2排出量に相当します。とてもインパクトのある数字であり実現が期待されます

まとめ

本記事のまとめを次の通り記します。
・再配達率の推移を見ると、長期的に下降トレンドになっている可能性が想定されます。ただし、もう少し今後の実態調査の結果を見る必要があります。
・都市部>都市部近郊>地方の順で再配達率が高い傾向にあります。原因として宅配便の量の多さ、交通渋滞の違い、単身世帯の比率の違いなどが想定されます。原因解消のためにはもう一歩踏み込んだ施策が必要と思われます。
・政府目標である再配達率7.5%を達成すると、ピーク時と比較して62,500世帯の年間CO2排出量を削減できるという試算になります。

投稿者プロフィール

立川 哲夫(たつかわ てつお)
立川 哲夫(たつかわ てつお)
株式会社いつも 執行役員 DX戦略グループ
D2Cモデル構築支援、販路DX支援、デジタルシェルフ総研の主任研究員を務めている。大手メーカー・老舗企業のECスタートアップ、D2C参入時の戦略・人材育成、海外展開戦略立案サポートを行いながら、企業向けEC研修・セミナーの講師・EC業界専門紙・メディアへの寄稿も多数行う。著書に「EC戦略ナビ」「EC担当者 プロになるための教科書」などがある。

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